M.K通信 (29)フレームアップ

「金正男氏殺害事件」の実行犯として起訴されていた、インドネシア国籍のシティ・アイシャ被告が釈放されたのに続き、ベトナム国籍のドアン・ティ・フォン被告も5月初めにも釈放されることになり、事件は終息することになる。 シティ・アイシャ被告は起訴取り下げによる無罪放免、ドアン・ティ・フォン被告は殺人罪より罪状の軽い「危険な手段を用いた傷害罪」に変更され釈放されることになった。

殺人罪で起訴されていた二人の女性に対するシャーアラム高等裁判所の審理結果が示すことは、彼女たちは「金正男氏殺害事件」の実行犯ではなかったということだ。 高等裁判所の判断に関連して、二人の女性の母国と北朝鮮に配慮した「マハティール流の解決、政治的配慮」などとするもっともらしい解説があるが説得力がない。 この説の真偽はともかく、二人の女性が殺人を実行した明確な証拠が存在したのなら、「マハティール流の解決」というものはありえなかったとみるのが妥当であろう。 もし証拠が明白であるにもかかわらず、「政治的配慮」がなされたと主張するのはマレーシアの三権分立を否定し、マハティール首相を侮辱することになる。 証拠がなかったことが釈放の最大の要因であったとみるのが自然だ。

大事なことは二人の女性が殺害の実行犯ではないことが確定したことで、「北朝鮮工作員にいたずらビデオの撮影と騙され猛毒のVXを顔に塗り、殺害した」という、事件の構図が崩壊、崩れ去ってしまったことだ。 もともと疑問だらけの事件で、VXを顔に塗られた金正男氏は死亡し、素手でVXを塗った女性の健康には何らの異常もなかったという説明がつかない多くの疑問と矛盾が置き去りにされたまま、マレーシアの捜査当局と韓国と米日のマスコミによって「北朝鮮の犯行」が印象付けられた奇怪な事件であった。

歴史学博士であるコンスタンチン・アスモロフロシア科学アカデミー極東研究所、朝鮮研究センター主任研究員は、「New Eastern Outlook」に載せた「落着というより、正確には崩壊した金正男殺人事件」とのタイトルの記事で、「捜査結果は朝鮮民主主義人民共和国の関与を決定的に確証してはいない」と強調しながら、多くの疑問点を指摘した。

参考までに要約を紹介する。

「女性たちが法律上の支援を受ける前の最初の証言で、彼女らが(殺人の日に)いたずらを後援した男性たちと夜を過ごしていたと言った。 後でこの情報は消えた、なぜなら、事件の『公認説明』によれば、北朝鮮の容疑者が暗殺の日に国から逃げたから。

故人は亡くなる前、彼の目に誰かが何かスプレーしたと言うのに十分な時間があった。だが(ビデオでわかるように)被告のいずれもそうしていない。 これは多分攻撃が、より前に起きていて、女性たちは注意をそらすことをしたのに過ぎなかったのを意味するのだろうか?

単に捜査官が彼らを尋問することができなかったのが主な理由で、朝鮮民主主義人民共和国国民が事件容疑者のままでいる。 読者は、韓国放送局が素早く報道したように、殺人の黒幕で、毒の製造者(教育を受けた化学者)として逮捕された容疑者リ・ジョンチョルが、彼に不利となる証拠欠如のために釈放されたのを想起されたい。 警察には彼らを尋問する機会があったが、マレーシアの朝鮮民主主義人民共和国大使館館員は、もはや事件の容疑者として言及されなかった」

さらにコンスタンチン・アスモロフ主任研究員は、「捜査は、この事件の真犯人を示したかもしれない非常に多くの手がかりを無視したように思われる」としながら次のようにしてしている。

「・・・毒が作られた研究所で、一連の捜査ができたはずだ。 所有者は地元の人だったが、所有者と借り手に質問した結果は未知のままだ。

女性たちが連絡をとっていた人々についても同様で、彼女らは二人とも韓国人と関係があったのが分かっている。 シティ・アイシャには彼女を旅行で日本と韓国に連れて行ったスポンサーがいたように思われる。 ドアン・ティ・フォンは、一回以上、韓国を訪問しており(彼女のフェースブックの友人198人中、40人が韓国人だ)、彼女は金正男が死んだ同じ日にフランスに旅行していた韓国人から公証人が署名した招待状を受け取っていた。 女性は二人とも(明らかにプレゼントとして贈られた)高価なスマートフォンを持っていたと報じられたが、誰もその電話の連絡リストを調査しようとしなかった。

女性たちに不利となる証拠には、彼女たちが行き当たりばったりで見知らぬ人に、いたずらをしかける練習をする「予行演習」ビデオがあるのは常識だ。 だが女性たちの指導者が朝鮮民主主義人民共和国民と確認されたという理論は一度も言及されなかった。

更に、金正男のコンピュータ・データが、これまで分析されたのかどうか、あるいは何が明らかになったかについてのニュース報道はない。」(マスコミに載らない海外記事、「落着というより、正確には崩壊した金正男殺人事件」

二人の女性の嫌疑が晴れたことでその構図が崩れ去った「北朝鮮犯行説」の先入観を排除して、これらの疑問点を見る必要がある。 謎に包まれた事件の断片はどこを指しているのだろう? なぜトランプ政権発足直後の2017年2月に事件が起きたのか? その政治的目的は? 事件の受益者はだれだったのか?

豪雨のごとく「北朝鮮犯行説」を垂れ流した韓日などのマスコミは、金正男氏による北朝鮮指導者への批判、「亡命政権への憂慮」などを、事件の動機としてまことしやかに報じた。 しかし、北朝鮮政権を暗殺に駆り立てる批判があったことはない。 また「亡命政権」云々も非現実的な想像に過ぎない。 分断されているばかりか、米韓同盟がある中でどこに行って何を目標に「亡命政権を」建てるのか? マスコミの豪雨のような報道から一線を画して考えればその非現実性は一目瞭然だ。

なぜ事件は2017年2月という時期に引き起こされたのか???

「金正男氏殺害事件」発生から11日経った2017年2月24日、トランプ大統領自が就任直後から進めた北朝鮮高官6人に対するビザ発給が突然中止されたことを知る人は少ない。 中止の原因は「金正男氏殺害事件」であったという。

元NHK記者・立岩陽一郎 調査報道NPO「ニュースのタネ」編集長は2017年2月26日のYahooニュースで「外交官を含む北朝鮮の高官6人を米国に招く計画を立てていたのは、外交問題を専門とする民間シンクタンクのNCAFP。 国務省によるビザ発給の手続きが進められ、早ければ3月にも北朝鮮高官の訪米が実現するものと見られていた。 国務省が関与した招聘ではないが、国務省がビザの発給を認めることで事実上、トランプ政権が北朝鮮政府高官の入国にお墨付きを与えるものとして注目されていた」と報じた。(米トランプ政権、北朝鮮との事実上の「協議」入りをドタキャン

トランプ大統領は選挙戦中から金正恩朝鮮労働党委員長と直接会っても良いと述べていた。 朝米交渉に積極的なトランプ大統領の姿勢は、北朝鮮にとって大いに歓迎すべきことであったことは明らかだ。

しかし、北朝鮮が望んでいた朝米交渉への道は、「金正男氏殺害事件」によって閉ざされることになり、シンガポール首脳会談に至るまで2年近くの歳月を要することになった。 北朝鮮のイメージとマレーシアとの外交関係を害したばかりか、朝米交渉の道を閉ざしたこの事件が北朝鮮の「犯行」だと考えるには無理がある。

真犯人は明らかに別にいる。北朝鮮に敵対し、朝米関係の改善を望まない勢力によるフレームアップ事件であった可能性が大きい。 フレームアップとは、政治的反対者を大衆から孤立させ、弾圧、攻撃の口実とするため一定の既成事実を歪曲、変造して利用したり、事件を捏造する政治技術。 政治的対立が激化している場合によく用いられ、マスコミなどを利用して大衆心理を巧みに操作、利用することによって効果を発揮する。 歴史的には、1933年ドイツ共産党を弾圧するために用いられたナチスによる国会放火事件、フランスのドレフュス事件、米国のサッコ‐バンゼッティ事件、日本では、三鷹事件や松川事件などがこの種の事件だと言われている。

朝米交渉を絶ち「戦略的忍耐」を掲げ北朝鮮圧力路線を取ったオバマ政権と朴槿恵保守政権下で南北対決を進めた韓米の強硬勢力にとって、トランプ大統領が北朝鮮融和路線を取り、政権発足直後から朝米交渉を進めようとしたことは大きな衝撃であり、強硬派を阻止へと駆り立てたことは想像に難くない。 シンガポール首脳会談時から続く激しいトランプ大統領に対する攻撃と非難を見れば明らかだ。

ハノイ会談の日程に合わせて強行されたスペインの北朝鮮大使館に対する襲撃も偶然ではあるまい。 襲撃犯は米海兵隊出身者も含まれる、殺人の技術をも持つ訓練された狂信的な反北朝鮮強硬勢力の末端と思われる。

朝米交渉が進むほど強硬派による反対も強まり、「金正男氏殺害事件」のようなフレームアップ事件が繰り返される恐れがある。 騙されなければフレームアップは無力化する。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。