M.K通信 (13)「まだ槍を投げ合っているのですか?」

「まだ槍を投げ合っているのですか?」

エディンバラ公フィリップ王配(イギリス女王エリザベス2世の夫)がオーストラリア先住民(アボリジニ)ビジネスマンに向けて発した言葉である。

周知のようにオーストラリアはイギリスの植民地化によって建てられた、イギリス連邦加盟国だ。 オーストラリア大陸のイギリスによる植民化が始まったのは1788年。 植民地化の過程で、アボリジニは圧倒的武力によって虐殺され、1920年頃には50万人~100万人のアボリジニ人口が7万人にまで減少したといわれる。 この過程で3万人以上のタスマニアン・アボリジニが絶滅したは広く知られている。

アボリジニがイギリスの残虐な植民地化に激しく抵抗したのは言うまでもない。 イギリスの植民主義者たちはこの抵抗を武力で弾圧すると同時に先住民同士を戦わせる「分割統治」の伝統的手法を駆使した。

「まだ槍を投げ合っているのですか?」ーこの発言に、残虐な武力弾圧と巧妙な分割統治によって、人口の約90%を失い差別され続けてきたオーストラリア先住民が激しく反発したのは言うまでもない。

エディンバラ公フィリップ王配の発言が先住民の反発を招いたのは、2002年のオーストラリア訪問時のことだ。

今から16年前の発言をことさらに持ち出したのは、イギリスの残虐な植民地化を告発するためではない。  エディンバラ公フィリップ王配の意図はどうあれ、200年前に槍を投げ合った先住民の愚かさをあざ笑うかのような発言が示すように、分割統治は今でも欧米が駆使している支配の手法だからだ。

分割統治とは、もともとある者が統治を行うにあたり、被支配者を分割することで統治を容易にする手法。 統治者が被統治者間の人種、言語、階層、宗教、イデオロギー、地理的、経済的利害などに基づく対立、抗争を助長して、後者の連帯性を弱め、自己の支配に有利な条件をつくりだすことをねらいとし、植民地経営などに利用された。 被支配者同士を争わせ、統治者に矛先が向かうのを避けようとすることに特徴がある。

欧米による分割統治の手法は、リビア、アフガニスタン、シリアなどの例にみられるようにより巧妙化、悪質化している。

リビアでカダフィ政権に反旗を翻した反政府軍が米国と追従するイギリスなどによって資金と武器の供与を受けていたことは秘密ではない。 米国はリビアを武装解除させた後に、内乱を誘発させ、最終的にはNATOが軍事介入してカダフィ政権を葬った。

アフガニスタンの場合は、米軍がタリバン政権を武力で崩壊させた後にかいらい政権を建て、抵抗するタリバンと戦わせているが、実際はタリバンと米軍の戦争である。 米国がタリバンとの直接対話に踏み切ったことは、タリバン人同士を戦わせる分割統治の手法が限界にきたことを示すものだ。

シリアも同様だ。 欧米の支援で成り立つ反アサド勢力は崩壊寸前まで追い詰めらている。 米国とイギリス、フランスなどが前面に躍り出てイドリブ県に押し込まれた反政府軍に対するアサド政権軍の攻勢をけん制していることは、シリア内戦も欧米の分割統治の手法によってもたらされたもので、実際ははじめからシリアと欧米の戦争であったことを物語っている。 シリアでも分割統治の巧妙な化けの皮が剥がされていると言えそうだ。

朝鮮半島で分割統治を担う要は国連軍司令部だ。

最近、国連軍司令部が南北の西海線鉄道共同点検のために、韓国側が求めた非武装地帯の通過を拒否したことは周知の事実だ。

国連軍司令部は休戦協定の当事者で軍事境界線を管理する権限を発動して南北の協力事業にストップをかけたのである。

韓国には駐韓米軍が存在するが韓米同盟に基づくもの。 また1978年11月には韓米連合司令部が作られ韓国軍の作戦統制権を移譲した。 これによって駐韓米軍は休戦にアプローチする名分を完全に失い、国連軍司令部だけが軍事境界線を管理する体制が出来上がっている。

もちろん国連軍司令官は駐韓米軍司令官が兼任している。 たとえて言えば、駐韓米軍司令官が、国連の帽子をかぶっているのだ。

この帽子がなくなれば、駐韓米軍は軍事境界線を管理する名分を失い、非武装地帯の通過を云々することはできなくなり、それは南北の手に委ねられることになる。

米国が終戦宣言に反対するのは、米軍が国連軍司令部という帽子をかぶり南北の分断線を管理する権限を行使して南北関係に介入するテコを確保するためのものだ。

ロバート・エイブラムス在韓米軍司令官指名者が先月、上院人事聴聞会で「南北対話が続いても、すべての関連事項は国連司令部によって仲介・判断・監督・執行されなければならない」と発言したことかは偶然ではない。

民族の和解と協力に介入、妨害し、分断を永続化させようとする不純な意図の表れで、米国が追及する朝鮮半島での分割統治の形だ。

もともと朝鮮半島に分割線を引いたのは米軍だ。朝鮮を植民地化した日本が敗走する中、1945年8月10日から11日にかけて行われた国務・陸軍・海軍調整委員会において「北緯38度線で暫定分割する」という案を画定した。 8月10日から11日の会議の最中、ペンタゴンにおいて陸軍次官補ジョン・マクロが、アメリカ軍の明白な進駐限界線の画定をディーン・ラスクとチャールズ・H・ボーンスティール3世大佐に命じ、二人は手元にあった小さな壁掛けの地図を参考にして限界線を北緯38度と決めたと言われる。 二人がこの作業にかけたのは、わずか30分であった。

朝鮮半島の分断によってあらゆる苦痛を強いられている朝鮮民族は決してこれを忘れない。

米国が終戦宣言に反対する今ひとつの理由が、朝鮮半島有事の際、自由に使用できる7カ所の後方基地と関連している。この後方基地は日本に置かれているが、管轄権を国連軍司令部が握っているためだ。 このため終戦宣言の採択は容易ではなかろう。

しかし、史上初の6.12朝米首脳会談によってはじまった和平プロセスを進めるには終戦宣言を避けることはできない。

朝鮮戦争を終わらせ、米国の分割統治を打破する手段は、南北首脳会談で重ねて確認されている「わが民族同士」の理念だ。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。