二枚舌と「相互不信」

コリョ・ジャーナル

24日からアメリカ・ニューヨークで開かれているUN総会の場で、韓国の文在寅大統領がトランプ大統領と首脳会談を行い、南北首脳会談の成果と朝鮮の金正恩国務委員長のメッセージを伝えた。 トランプ大統領は朝米首脳会談に応じる意思を明確に示し、文大統領は一般討論演説で朝鮮の努力に国際社会が応えるよう訴えた。

一方では、朝鮮も李容浩外相をNYに派遣、ポンペオ国務長官と会談を行い4回目の訪朝を要請し、ポンペオ氏も10月の訪朝を受諾した。これは2回目の米朝首脳会談を詰めるための作業になる。

南北間、朝米間では程度の差こそあれ、首脳同士の共感と信頼は確りと構築されている。

関係国が朝鮮半島和平に向けて連動して動いている中で唯一「蚊帳の外」と揶揄される日本だが、状況に余程焦ったのか、ここに至って、安倍首相が「面白いこと」を言い出した。(もちろん皮肉だが。)

安倍氏はUN総会の一般討論演説で「拉致、核・ミサイル問題の解決の先に、不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。 私達は北朝鮮がもつ潜在性を解き放つため、助力を惜しまないでしょう。・・・
拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩委員長と直接向き合う用意があります。いま決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています」と語り、朝鮮との対話を希望してみせた。

昨年のUN総会では「対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した」「必要なのは、対話ではない。圧力」「核、ミサイルの開発に必要な、モノ、カネ、ヒト、技術が、北朝鮮に向かうのを阻む」「北朝鮮の政策を、変えさせる」と、あからさまな敵意を剥き出しにして朝鮮を非難していたはず。

「対話の為の対話はしない」と言い捨て、ある意味、米国よりも更に踏み込んで対決と圧力を煽っていた御仁が、今度は「次は私自身が金正恩委員長と向き合っていく」と来た。

率直に言わせていただくと、呆れて言葉が出ない。 支離滅裂、我田引水、言動不一致、厚顔、二枚舌の極致だ。 よくぞここまで臆面もなく言ってのけられるものだ。

米ワシントン・ポストも、「日本の安倍首相は『自ら金正恩氏と会って相互不信の殻を打ち破る』と、何度も『決意』を表明してきた。ところがこれまで、会う『兆し』すら、まったく見えてこない。決意と現実は全く逆である」(23日付)と安倍氏の二枚舌を指摘している。

朝鮮は繰り返し忠告してきた。 真摯に向き合って「日朝平壌宣言」に基づいて国交正常化交渉に取り組まないと、今に取り返しが付かなくなると。 なのに、「拉致」「核」「ミサイル」、特に「拉致問題」を自己の都合で政治利用し続け、自らの言でハードルをこの上ない高さまで押し上げてしまった。 安倍氏の頑ななまでの一方的な朝鮮敵視と不誠実な二枚舌が、氏の言うところの「相互不信」の現状を招いたのだ。

会談・対話・交渉には相手があり、相手方が了承し向き合ってこそはじめて成立するもの。 朝鮮に対し前向きな姿勢を見せるべきなのに、相も変わらぬ「在日朝鮮人いじめ」は一向に収まる気配がない。

6月末の関西空港税関の神戸朝鮮高校生らに対する理不尽な「土産没収」しかり、今度は、高校授業料無償化の対象から朝鮮学校を外した国の処分について、「大阪朝鮮学園」が処分取り消しと無償化の適用を求めた訴訟の控訴審判決(27日)で大阪高裁が原告勝訴の一審・大阪地裁判決を取り消し、原告の訴えを退けた。

その一方で、安倍氏は昨年のUN総会で「北朝鮮はアジア・太平洋の成長圏に隣接し、立地条件に恵まれています。勤勉な労働力があり、地下には資源がある。 それらを活用するなら、北朝鮮には経済を飛躍的に伸ばし、民生を改善する途があり得る」と発言し、今回のUN総会演説でも「いまや北朝鮮は、歴史的好機を、つかめるか、否かの岐路にある。手つかずの天然資源と、大きく生産性を伸ばし得る労働力が、北朝鮮にはあります」などと言ってのけた。

朝鮮に対する「宗主国然」とした上から目線と、露骨な経済的欲望が剥き出しだ。 日朝関係正常化を日本の経済活路開拓、経済植民地化としか捉えていない。 これでは真の過去清算と正常化は望むべくもない。

日米首脳会談後の記者会見で、自身を前にして金正恩国務委員長からの親書をこれ見よがしに取り出して見せ自慢するトランプ大統領の姿を、安倍氏は一体どんな思いで見ていたのだろうか。(Ψ)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。