M.K通信 (22)ハノイ会談で何が話し合われるのか

米首脳のハノイ会談が近づくにつれ、様々な憶測が流される一方で、トランプ大統領の交渉姿勢に対する懸念と非難がエスカレートしている。

ディールの内容にかかわる憶測には、ディールの一方の当事者である北朝鮮の立場を軽視した推測が多くみられ、トランプ大統領に向けられた懸念と非難は、北朝鮮の一方的非核化をかたくなに要求し続ける米韓日の保守強硬勢力によるものだ。

米韓日の保守強硬勢力とは、米国の民主党タカ派、ネオコンと大手マスコミなど軍産タカ派の代弁者と、彼らにすがりつく韓国の野党で、5.18光州民主化運動を光州に潜入した北朝鮮人民軍の指揮・扇動によるものとのでっち上げをもいとわない極右政党・自由韓国党と、支持勢力である朝鮮日報、東亜日報、中央日報などの保守的マスコミ、それに同調する日本の保守政権とマスコミのことだ。 彼らの主張は、力による圧力で北朝鮮に一方的な非核化を強いるもので、その先には北朝鮮政権打倒への狙いが秘められている。

この勢力の主張は実現不可能でいたずらに緊張だけをあおる結果しか招かない。 冷戦終結後の24年間、北朝鮮はこの勢力の一方的な圧力に屈したことは一度もない。 制裁と圧力をはねのけ「国家核戦力を完成」させた経緯を振り返ってみれば明らかだ。 この勢力は超大国の力を過信して過去から学ぶ能力を失ってしまったようだ。 新たな朝米関係の樹立、平和体制確立、朝鮮半島非核化に向けたどのような合意も「安易な妥協」「譲歩」にしか見えないだろう。 このため会談前からトランプ大統領をけん制し、「枝葉末節的なショーで終わる可能性が高い」「詐欺的な非核化交渉」などと口を極めて非難している。 犬は吠えるがキャラバンは進むとの諺は、2017年9月国連総会に出席するためにニューヨーク入りした李容浩北朝鮮外相が使って話題になったが、朝米首脳会談に反対・非難する強硬派はまるで徐々に前進して離れていくキャラバンに向かって後ろから吠えるあわれな犬のように見える。

目前に迫ったハノイ会談は、シンガポール会談後、硬直した朝米和平に向けた対話を推し進める新たなきっかけを作るための会談で、決裂宣言のための会談ではないことは明らかだ。 会談で話し合われる具体的な内容は当事者以外は知る由もないが、朝米共同声明で約束した、新たな朝米関係の樹立、平和体制確立、朝鮮半島非核化を実現するための道筋を探ることになろう。

周知のように北朝鮮はシンガポール朝米首脳会談を前後して、核兵器の生産と実験の中止、非拡散を宣言し地下核実験施設を破壊、さらにはミサイル実験も凍結、長距離ミサイルのエンジン実験施設を解体するなどの非核化措置を先行させ、米国に相応する措置を取るよう求めた。 これに対しポンペオ国務長官の実務チームが、「核申告」「リストの提出」など一方的非核化を要求して、制裁強化に奔走したのが硬直化した原因だ。

昨年12月20日に朝鮮中央通信が公表したチョンヒョン氏の論評で、非核化先行措置に対する相応する措置について、次のように指摘している。

「われわれが・・・要求したのは米国が決めるのが難しく実行が困難なことではない。 対朝鮮敵対視政策の終息と不当な制裁措置解除など、事実上米国が決心すれば指一つ動かさずにできることを実行しろということだ。」

対朝鮮敵対視政策の終息とは、朝米関係の改善と休戦体制の平和体制への転換を指す。 一朝一夕にできることではないが、意思を示し第一歩を踏み出せとの要求と解釈される。

共同声明での朝米合意にも関わらず、米国は人事交流の道すら閉ざしたまま朝米関係改善に一歩も動かず、終戦宣言に合意しながら実行を避けてきた。 関係改善なしには信頼関係は生まれず非核化は絵空時と化すしかない。 また、冷戦構造を維持することは敵対関係の存続を意味し、制裁を強化することも敵対政策を一層強める意思の表れだ。

このため、対朝鮮敵対視政策の終息と制裁措置解除は第2回朝米首脳会談の焦点にならざるを得ない。

第2回朝米首脳会談が設定されたのを受けて、スティーブン・ビーガン米北朝鮮担当特別代表は1月31日にスタンフォード大学での講演で、①朝鮮戦争を終える準備ができている②北朝鮮がすべてを終えるまで何もしないということではない③同時的並行的履行ーなど、米国の政策的スタンスについて説明した。 従来の姿勢を軟化させ北朝鮮の要求に歩み寄った内容とみることができる。

このことから、ハノイ会談では「終戦宣言」もしくは「平和宣言」、連絡事務所の設置、寧辺核施設廃棄などなどのディールの可能性が取りざたされている。

寧辺核施設廃棄は昨年9月の南北首脳会談で北側が「相応する措置があれば」との前提で言及したもの。 留意すべきは、寧辺核施設廃棄の前提である「相応する措置」は、先に述べた非核化先行措置に対する「相応の措置」とは内容が異なるということだ。 北朝鮮は寧辺核施設廃棄の前提である「相応する措置」の内容に言及したことがない。 さらには一部でささやかれている終戦宣言と寧辺核施設廃棄との取引説についても昨年10月に「荒唐無稽な詭弁」と一蹴している。

朝鮮中央通信が論評で(2018.10.2)「・・・終戦は誰かが誰かに与えるプレゼントではなく、われわれの非核化措置と取引する材料では決してない」と指摘、米国が望まないなら「恋々としない」と表明したことを思い起こすべきだ。 北朝鮮はこの論評で、寧辺核施設は「核計画の心臓部のような核心施設」で「休戦協定に従い半世紀前に解決されなければならなかった」問題である「終戦宣言」との取引は「荒唐無稽」であるとの姿勢をはっきりと示したのだ。

北朝鮮のこのような姿勢から見て、ハノイ会談では制裁問題を含めた敵対政策の終息が焦点にならざるを得ず、具体的には新しい朝米関係の樹立に向けて信頼を積み重ねるための諸問題と休戦体制からの脱却と平和体制構築に向けた第一歩を踏み出すための措置等々が論じられるのではないか?

「朝鮮半島とは共和国と米国の核兵器をはじめとする武力が展開されている南朝鮮地域を包括しており、朝鮮半島の非核化とは北と南の領域だけでなく、朝鮮半島を照準に定める周辺からすべての核の脅威の要因を除去することを意味する」(チョンヒョン氏の論評) 北朝鮮核計画の「核心施設」である寧辺核施設廃棄の前提である「相応する措置」とは、平和体制の確立と「核の脅威の要因を除去する」こととの関連で見るべきであろう。

北朝鮮はイラクでもなければリビアでもない。 また米国の格下の、また敗北した同盟国でもない。 れっきとした自主的な主権国家で核保有国だ。 朝米交渉は、米国が「褒美」「見返り」を与えながら進める核化交渉ではなく、核保有国同士の和平交渉だ。 「見返り」を云々しながら「相応の措置」を軽視した分析・展望は必ず誤る。

相互に信頼を積み重ねながら、誠意ある措置には相応の措置で答える同時的、段階的方法で臨んでこそ、朝鮮半島の平和と非核化を実現できる。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。