M.K通信 (52)game changer

北朝鮮の 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の能力は米国本土に対する直接的脅威になる「game changer(ゲームチェンジャー、ゲームの流れを一気に変える要因)」だ。 10月25日にバージニア州アーリントンで開かれた国防記者懇談会でのロバート・バーク米海軍参謀次長の発言だ。 自由アジア放送記者の質問に答える中で示された認識で、同次長は「北の能力を過小評価する愚を犯してはならない」と強調、警戒心を露わにした。 また同次長は「水中発射台から発射されたものとみられる」との米統合参謀本部のライダー報道官発言に関連する質問を「定かでなない」と一蹴、「北のSLBM開発能力を綿密に注視しなければならない」と述べている。 去る10月2日に試験発射された北朝鮮のSLBM「北極星3」に対する米韓日当局、専門家、マスコミの過小評価に、米海軍の当事者が警鐘を鳴らした形だ。

ゲームチェンジャーと言えば、一昨年の7月4日北朝鮮が米本土を打撃すことが可能な「火星14」の発射実験直後、英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のジョン・ニルソン=ライト博士がBBC Newsへの寄稿文(2017年07月6日 )で、「紛れもないゲームチェンジャー」と指摘したことを思い起こす。

「アラスカを射程圏内に収める今回の実験は、象徴的な意味でも実際的な意味でも、紛れもない『ゲーム・チェンジャー』だ。 大半の米国本土からは地理的に離れているとはいえ、アラスカという米国領土がついに北朝鮮政府の標的内に入った。 そして、北朝鮮が単に北東アジア地域や米国の主要同盟各国への『本物で現在の』危険だというだけでなく、米国そのものにとっての『本物で現在の』危険なのだと、米国大統領が初めて受け入れざるを得なくなった。」

北朝鮮がその数か月後にワシントンを射程に収めた「火星15」の発射実験にも成功したことは周知の事実だ。 北朝鮮のICBMと関連して一部で大気圏再突入技術を取得していないなどと過小評価する向きがあるが、北朝鮮に対する感情的反発か、もしくは北朝鮮の技術を認めたくない愚か者のたわ言か、あるいは北朝鮮を貶めるための意図的なプロパガンダに過ぎない。 プロパガンダと言えば、北朝鮮が打ち上げた人工衛星について、「人工衛星を打ち上げ軌道に乗せることには成功しているが、人工衛星が正常に稼働していない」などと主張する輩もいる。 こういう人々には米国議会の諮問機関「議会電磁波委員会」のピーター・ビンセント・プライ顧問が3月末の「ワシントン・タイムズ」紙に発表した「北朝鮮非核化のための軍事オプション」という論文を一読することをお勧めする。 同顧問は北朝鮮の2基の衛星は核兵器と組み合わせることによって米国全土の電力送信を止めることが可能になるためとの理由で、宇宙軌道を飛行している北朝鮮の人工衛星2基を電磁波攻撃によって無力化することを提案しているのだが・・・。 「稼働していない」とはほら話のようだ。

話を軌道に戻そう。

米国防総省はホームページ上で公表(4月1日)した報告書「米国の核抑止政策」で、北朝鮮は「6回にわたる精巧な核実験を実施し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験も3回行って米本土を攻撃できる力が立証された」と指摘した。 また、北朝鮮、ロシア、中国の3カ国を「核によって米国の脅威となる国」として名指ししている。 大気圏再突入云々は論外だ。

これ以上の説明は蛇足になろう。 北朝鮮は明らかに、ICBMとSLBMの2大戦略兵器を手にするに至っている。 米本土に直接届くICBMとSLBMを開発したのは北朝鮮とロシア、中国の三か国だけだ。 朝鮮戦争から始まる70年に渡る朝米対決の流れを変えるgame changer以外の何物でもない。

激しい抵抗と紆余曲折を経てはいるものの、それまでは想像もできなかった史上初の朝米首脳会談が行われ、ハノイでの決裂にもかかわらず3回目の首脳会談が模索されていることはそれを如実に示している。

北朝鮮が朝米対話で求めていることは明らかだ。 米国の対北朝鮮敵対政策の転換だ。 まずは米国が北朝鮮の体制転換の企図を放棄し、朝米関係を改善、さらに70年に渡る戦争を終結させ平和協定を締結しなければならない。

ハノイ首脳会談からストックホルム実務会談まで朝米は敵対政策の転換対「先武装解除」で平行線をたどってきた。 いつでも銃口が火を噴きかねない不安定な戦争状態の中で、「先武装解除」を要求しても耳を傾ける愚か者は世界中に一人もおるまい。 「先武装解除」の敵対政策を小手先で弄り回して狙いをぼかしてみても北朝鮮を騙すことはできない。 ストックホルム実務会談の決裂はこれを示している。

ハノイ会談以後北朝鮮が米国に新しい計算法を要求して今年末まで待つと表明する一方、米国が敵対政策を貫くなら「新しい道」を行くことになるとの姿勢を鮮明にしていることは周知の事実だ。 米国が北朝鮮の体制転換を追及する限り北朝鮮はICBMとSLBMをはじめとする核抑止力を強化しながら敵対政策の転換を迫ることになろう。

北朝鮮はハノイ会談を契機に長期戦に備える姿勢を鮮明にしている。 去る8月23日李容浩外相は米国が敵対政策を続けるなら「われわれは米国の最も大きな『脅威』として長い間残り、米国が非核化のために何をすべきかを必ず悟らせる」と指摘した。

時間の経過はより洗練された北朝鮮の核武装を招くことになり、米国の覇権を支える核戦略を揺さぶり続けることになろう。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。