M.K通信 (7)ポンペオの教訓

朝米首脳会談以後初めて行われた両国の高官会談(7月)で、ポンペオ国務長官がCVIDに基づく北朝鮮の一方的非核化を持ち出したことが原因で朝米交渉はこう着状態におちいっている。

幸いトランプ大統領が「金委員長に最も温かい安否の挨拶と敬意を伝えたい。  私はすぐに彼に会えることを楽しみにしている!」と述べ、朝米首脳会談のモメンタムを維持しようとしていることから遠からず朝米交渉は再開されよう。

しかし、米国実務官僚が引き続き「先非核化」に固執するなら曲折は避けられず、去る4月、CIA長官であったポンペオ氏が上院外交委員会で語った自信に満ちた発言を思い起こす。

ポンペオ氏は国務長官指名承認公聴会で、過去に米国が行った北朝鮮との交渉記録を読んで研究したとし、「過去の過ちを繰り返さないという自信がある」と強調した。

「過去の過ち」の具体的な内容には触れておらず、ポンペオ国務長官がクリントン、ブッシュ、オバマの歴代政権の朝米交渉史から何を学んだのか強い興味を抱かざるを得ない。

なぜなら、トランプ大統領が積極的な姿勢を見せる終戦宣言に背を向け北朝鮮の一方的な非核を要求することが、「過去の過ちを繰り返す」ことにならないのかと危惧するからだ。

確かなことは、「先非核化」を唱える現在の姿勢が、北朝鮮政権の打倒、崩壊を目指して、北朝鮮を武装解除し丸裸にするための一方的な要求を掲げ失敗を重ねた、歴代政権の強硬姿勢と酷似していることだ。

クリントン政権下で国防長官を務め、`98~`00年には「北朝鮮政策調整官」としてペリープロセスを提唱、推進したウィリアム・ペリー氏は、朝米間の緊張が極度に高まっていた昨年、日経新聞(2017/7/18)のインタビューに答え次のように指摘した。

「6カ国協議においては、米国は強力なパッケージを持ったことがない。いつも経済的なインセンティブだけだった。

彼らは失敗する運命にあった。 ブッシュ、オバマ両政権の失敗の理由は、北朝鮮が崩壊すると信じていたからだ。時間の問題だと。

だから、時間が過ぎるままにすればいいと。 もちろん崩壊しなかったし、これから崩壊するだろうと予測する理由もない」

ブッシュ政権が進めた6者会談は、北朝鮮政権の崩壊を即すための偽りの「和平プロセス」にすぎなかったことを示している。

ブッシュ政権発足とともに進められた北朝鮮政策の見直しで、同政権の中枢を占めていたネオコン勢力は融和を否定、「強硬関与」を打ち出し、その原則にCVIDを掲げた(M.K通信 〈2〉強硬関与とCVID参照)。 この方針に従いブッシュ政権は、ジュネーブ合意を葬り、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、「核先制攻撃も辞さない」と恫喝し、6者会談では「先核放棄」に固執して交渉を破綻させた。

オバマ政権に至っては、北朝鮮の度重なる対話提案を拒否、「戦略的忍耐」を掲げた。 その狙いが北朝鮮の崩壊にあったことは、「インターネットなどの情報が北朝鮮に変化をもたらす。 北朝鮮の・・・政権をこれ以上維持する事は難しい。 アメリカは北朝鮮に対する圧力の水位を高め、時間とともに北朝鮮は崩壊することだろう」(動画サイト・ユーチューブとのインタビュー、2015年01月28日)とのオバマ前大統領自身の発言に裏打ちされている。 忘れてはならないのは、オバマが語った「圧力の水位を高め」とは、経済制裁とともにミニットマン核ミサイルの発射演習、B-52による核模擬爆弾の投下演習などの露骨な核恫喝を含んでいたことだ。

クリントン政権も例外ではない。 現在に至って明らかになったことは、ジュネーブ合意も北朝鮮政権の崩壊を前提に結んだものではじめから実行する気がなかった。 軽水炉建設が遅々として進まず、2002年に至っても基礎段階であったのはこのためだ。

「クリントン政権当局者は、1994年に計画が完了する前に北朝鮮政府が崩壊すると考えたために、彼らが計画に同意したことを非公開にした。」(グレン・ケスラー、ワシントンポストスタッフの作家 、2005年7月13日聯合)

北朝鮮はジュネーブ合意に従い合意破綻まで黒煙減速炉を凍結し、10年にわたり核物質を作っていなかったことはIAEAによって証明されている。 北朝鮮は合意を守ったのであり、軽水炉建設の約束をホゴにしたのは米国であることは明らかだ。もし米国が約束通り軽水炉を提供し、関係改善に動いていれば核兵器の開発には至らなかったことは想像に難くない。

しかし、米国と日本の大手マスコミと韓国の保守系紙は「北朝鮮が約束を破った」と非難し事態を歪曲している。

25年間の朝米交渉史は、合意文書には関係改善、敵対の放棄、平和体制を明記して北朝鮮を欺き、真の目的を北朝鮮政権の打倒、崩壊に定め、手法において「先非核化」等の一方的要求で、武装解除させようとした米国の強硬路線が北朝鮮の核兵器開発を招いた、というのが真相であることを示している。(米国の著名なジャーナリスト、ティム・ショロック氏が昨年9月5日『ザ・ネイション』に寄稿した記事で歴代政権下での朝米交渉の実態を当事者、関係者の証言を交え詳しく分析している。当サイトにも訳文がアップされている。参照にされたい。)

「過去の過ちを繰り返さない」と自信を示すポンペオ国務長官は、朝米交渉史からいかなる教訓を得たのであろうか?

安全保障の約束をないがしろにしたまま、圧力で一方的譲歩を迫ることは、過去の失敗を上書きすることにしかならないと思うのだが・・・。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。