M.K通信 (23)米国は準備ができていない

米国にとっておつりが出る取引であったように思える。

寧辺の核施設は、北朝鮮の核プログラムの核心施設だ。ここで核兵器の原料になるプルトニュームが再処理され高濃縮ウランが生産されてきた。 北朝鮮が一昨年に宣言した、完成した「国家核戦力」の増強を意図するなら、なくてはならない重要施設だ。

北朝鮮は、この寧辺の核施設を「民需経済と人民生活に支障をきたす一部項目」の制裁解除と引き換えに廃棄すると提案した。 北朝鮮の非核化意思を鮮明にした驚くべき提案であったが、米国はなぜか受け入れなかった。

寧辺の核物質を生産する核施設の廃棄は北朝鮮非核化に避けては通れない行程であることはだれの目にも明らかだ。 この提案を受け入れずにどのように北朝鮮の非核化を進めるというのだろう。 強硬派は老朽化した施設と中傷しているが、この施設はその気になればこれから数十年核兵器の増強に決定的役割を果たせる施設だ。

なぜ米国は提案をうけいれなかったのか? 米国は北朝鮮の非核化に関心があるのか? それとも、マイク・ホイットニー(ワシントン在住のジャーナリスト)が言うように「狙いは核兵器ではなく、政権転覆」にあるためなのか?

マイク・ホイットニーは、ハノイ会談直後の3月1日「The Unz Review: An Alternative Media Selection」に乗せた「Trump Sabotages North Korea Summit to Appease the Hawks」とのタイトルの記事で、「アメリカの対朝鮮民主主義人民共和国政策は、政権転覆だ。 経済的締め付け(制裁)は、ワシントンが反体制派を弾圧し、強権的手法で意志を強いる一つの方法だ。」と指摘した。

ハノイ会談で北朝鮮の提案に背を向けた背景にこのような意図が潜んでいるなら、シンガポール首脳会談での共同声明は欺瞞に過ぎなかったことになる。 米国が寧辺の核物質生産施設の廃棄という北朝鮮の思い切った提案を受け入れなかった理由は現時点では明らかでなない。 時間の経過が必要だろう。

トランプ大統領が朝米首脳会談後に開いた先月28日の記者会見で、米国は寧辺核施設の廃棄プラスアルファの非核化措置を望んでいたとし、寧辺の施設以外に「われわれが発見したものがあった」と述べ、ウラン濃縮施設のようなものかと問われると「そうだ」と応じたのは周知の事実。 しかしトランプ大統領はこの点に対する詳しい説明をポンペオ国務長官に任せてしまった。 異例のことで、トランプ大統領自身はこの問題について把握していないことを示すものだ。 さらにトランプ大統領に振られたポンペオ国務長官の説明は曖昧模糊としたもので、北朝鮮の提案を受け入れなかった原因が何なのか釈然としない。 ポンペオ長官は「寧辺の核施設のほかにも非常に規模の大きな核施設がある」としながら、「(核)リストの作成と申告、そうしたことに合意できなかった」と述べているが、「ウラン濃縮施設のようなもの」なのか、「(核)リストの作成と申告」が問題だったのか、がよくわからない。

このような、雑然とした意味不明の、言い訳じみた説明は、北朝鮮の非核化提案を拒否する口実探しに汲々とする米国の追い詰められた姿が浮かび上がる。

北朝鮮の李容浩外相は3月1日未明(現地時間)に行った記者会見で「・・・協議の過程で、米国側は寧辺地区の核施設の廃棄措置のほかに、さらに一つのことをしなければならないと最後まで主張し、したがって、米国は我々の提案を受け入れる準備ができていないことが明らかになった」と述べている。

ハノイ会談で米国が北朝鮮の提案に背を向けた理由は、李容浩外相が指摘したように、米国側の準備が整っていなかったとみるのが的を得ているように見える。

トランプ大統領は肝心な部分の説明をポンペオ長官に任せるかと思えば、早々に交渉継続への強い意欲を示し、ポンペオ長官はシンガポール首脳会談以後こだわり続け朝米関係を膠着させた「核申告」を云々するなど、言い訳じみた理解しがたい言説を繰り返しており、ボルトン補佐官はリビア方式を彷彿させる強硬論を吹聴している。 ハノイ会談に臨む三者三様の思惑を反映しており、北朝鮮側から「われわれの提案を受け入れる準備ができていない」と言われても仕方ないようだ。

憂慮されるのは、「ウラン濃縮施設のようなもの」に対するトランプ大統領の言及である。 今までのところ具体的な施設名または施設のある地名などが明らかにされていない。 「・・・ようなもの」に対する確信があるなら、地名でも明らかにして北朝鮮に廃棄を求めるべきであろう。

李容浩外相はこの点について米国が「さらに一つのことをしなければならないと最後まで主張」したと指摘しており、具体的な施設を指定して廃棄を要求したとは考えにくい。 米国は今からでも「・・・ようなもの」がどこにあるのか明らかにすべきだ。

この手の米国のプロパガンダ情報は信じるに足りない。 衛星情報を根拠にするのは常とう手段だが、衛星から建物の中、もしくは地下施設を透視できるわけではない。 またのぞき見にはそれを避ける知恵もある。

一方、ポンペオ長官が「核リスト、申告」にこだわるのは、情報がないことの裏返しにすぎない。 李容浩外相が指摘した「さらに一つのこと」が「核リスト、申告」を意味するなら、米国は実現不可能な一方的な非核化にこだわり続けていることを示すものだ。

制裁は敵対行為だ。 敵対しながら一方的非核化を要求しても実現することは不可能だ。 それは北朝鮮の核保有を既成の事実にする効果しかない。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。