M.K通信 (18)選択肢はない

来年1月か2月には北朝鮮との2回目の首脳会談を開くとのトランプ大統領の発言を契機に朝米間の駆け引きが激しさを増しており、韓国の文在寅政権と中国も朝米和平交渉を進展させるべく、あわただしく動いている。

第2回朝米首脳会談の焦点は、硬直化している朝米関係を打破して、6.12朝米共同声明合意を実現させるための突破口をこじ開けることができるかどうかにある。

朝米関係が膠着状態におちいった原因は米国にある。

周知のように歴史的な6.12朝米関係が朝米首脳会談では、米国による安全保障の提供、朝鮮半島の完全な非核化に対する意思を確認し、朝米関係の改善、強固な平和体制の構築、朝鮮半島の非核化努力、遺骨返還の4項目に合意した。 しかし、ポンペオ国務長官は首脳会談直後から首脳合意を実行しようとせず、北朝鮮に「核申告」を求めるなど「先非核化」を要求、北朝鮮がこれを「強盗のような要求」と非難したことは記憶に新しい。

以来、米国は朝米関係改善のための措置を何一つ講じないばかりか、トランプ大統領が肯定的立場を示した終戦宣言にも応じようとしていない。 行ったことといえば、ほころびはじめた制裁を取り繕い対北朝鮮圧力を強化することだけだ。

特に南北首脳会談を通じて平和と共同繁栄を推し進めようとする文在寅政権に対する圧力は暴虐無人そのものであった。 米財務省が直接韓国の有力銀行と財閥に電話して、北朝鮮に対する協力意思を問いただすかと思えば、「北の非核化より南北関係を先行させてはならない」と韓米ワーキンググループの結成を強要する横暴なふるまいは、まるで米国が宗主国と言わんばかりの行動で韓国民の怒りを呼び起こすのに十分な行為である。

米国務省と財務省によるこのようなふるまいは、朝米両首脳による共同声明の履行意思を疑わせるだけでなく北朝鮮政権の崩壊を狙ったリビア方式を彷彿とさせる。 特に米財務省が人権問題を口実に朝鮮労働党幹部と政府高官を制裁対象と発表(12月10日)したことは、首脳会談開催をめぐる駆け引きの次元を超えた敵対行為だ。

米国が朝米共同声明の履行に背をむけ「先非核化、後制裁緩和」で突き進むなら朝米対立の再燃は避けられない。

北朝鮮外務省クォンジュングン米国研究所所長は11月2日、朝鮮中央通信を通じて発表した論評で、今まで北朝鮮が先行して行った非核化措置に相応の措置がなければ、山を動かすことがあっても1mmも動かない、米国が引き続き態度を改めず傲慢にふるまうなら「併進」という言葉を復活させる路線の変更を慎重に検討せざるを得ないと明らかにした。 朝米交渉を進める有力な実務担当者が路線変更まで言及したこの論評には北朝鮮最高指導部の意思が反映された警告とみるのが妥当であろう。

もし米国が北朝鮮の警告を無視して核リストの提出など一方的な要求を掲げ圧力にしがみつくなら、来年1月か2月とされる第2回朝米首脳会談の開催自体が不可能になる。

ボールは米国側にある。

クォンジュングン米国研究所所長が指摘したように、北朝鮮は圧力では1mmも動かないばかりか、対立が再燃すれば核抑止力を強化することで対抗するだろう。

朝米共同声明に沿って和平プロセスを進めるのか、リビア方式に回帰して圧力による一方的な武装解除を迫るのか、米国次第だ。

経済制裁と圧力を維持、強化すれば、経済総集中路線を打ち出している北朝鮮を一方的な非核化に追い込むことができると考えるのはあまりにも愚かだ。

今年4月に打ち出された経済総集中路線は、国家核戦力の完成によって安全保障が担保され経済建設に集中することができる環境が整ったとの判断に基づいたものだ。 北朝鮮が経済発展のために安全保障を犠牲にすることはない。 勘違いしないほうが米国のためだ。

米国が6月12日にはじまった和平へのプロセスをわずか半年で覆し一方的な非核化を強要し対決に回帰するなら、北朝鮮は核戦力の増強で応じることになろう。 先述した北朝鮮外務省のクォンジュングン米国研究所所長が指摘した・・・「併進」という言葉を復活させる路線の変更・・・とはそういう意味だろう。

米国にとって望ましい選択肢ではないのではないか?

北朝鮮の非核化は永遠に遠のく結果を招くことになろう。

さらに北朝鮮の核保有はNPT体制による核独占を揺るがし、米国の核覇権に深刻な影響をもたらすことになるのは必至であろう。

インド、パキスタン、イスラエルの核保有でNPT体制はすでに形骸化して久しいが、北朝鮮による核保有はNPT体制を崩壊に導きかねない。 北朝鮮の国家核戦力は、インド、パキスタン、イスラエルとは異なり、ワシントンを射程に収めたICBMと水爆を兼ね備えたもので、その矛先は米国 に向けられている。 米国が北朝鮮に一方的非核化を強要し、核対決の道を選択するなら、北朝鮮の核戦力増強を招き、確実にNPT体制は終焉に向かうことになり、米国の核覇権もまた危機に直面することになろう。

米国がとれる選択肢は限られている。

朝鮮半島を核兵器も核の脅威もない平和に地に。 南北の首脳が合意している朝鮮半島非核化の姿だ。

朝鮮半島の非核化こそが米国にとっても最もリスクがない最善の選択肢のように見えるが・・・。 しかし米国はその傲慢さゆえに最善の道を選ぶとは限らない。 北朝鮮にとってはこれも想定内のことであろう。(M.K

 

 

 

 

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。