M.K通信 (57)破綻した「対話と圧力」路線

朝米間の攻防が大きな曲がり角に差しかかっている。 米国が年末まで「新しい計算法」を示さなければ、朝鮮は「新しい道」に進むことになろう。

朝鮮が「新しい道」に進むことは米国にとっては悪夢だろう。 理由は明らかだ。 「新しい道」は、朝鮮がシンガポール首脳会談以来取ってきた、核兵器をこれ以上作らない、実験しない、ICBM発射実験も行わないという実質的な「核凍結」の解除を意味する。 「核凍結」の解除が朝鮮の核抑止力の強化に直結するのは必然で、米国に対する脅威の増大に繋がろう。

また朝鮮が「新しい道」に進むことは、米国による「対話と圧力」路線の破綻を意味する。 米国はシンガポール首脳会談以来、朝鮮との対話を進め核抑止力の強化を制御しながら、「史上最大の圧力」を一層強化して朝鮮を「先非核化、先武装解除」に追い込もうとしてきた。 ハノイ首脳会談で米国が持ち出した「ビッグディール」と、シンガポール会談以降米国が15回に渡って朝鮮に対する制裁を発動した事実が物語っている。

米国が「新しい計算法」の提示に応じず、朝鮮の体制崩壊を追及する「対話と圧力」路線に引き続き執着していることは10月初に行われた朝米実務者交渉で再度確認された。 米国が対朝鮮敵対政策を転換させる意思を示さない以上、朝鮮にとって朝米対話を続けるメリットはない。 朝鮮側が朝米交渉のテーブルから非核化問題を下ろして「対朝鮮敵視政策を撤回する前には非核化協商について夢も見てはならない」(朝鮮アジア太平洋平和委員会・金英哲委員長談話、11月18日)と姿勢を旋回させたのはこのためだ。 「先武装解除」を目的にする「対話と圧力」路線にはこれ以上お付き合いしませんという朝鮮側の意思表示だ。

米朝会談シンガポール首脳会談以来の朝米交渉の構図が崩れ去り米国は朝鮮の核抑止力増強を制御する手段を失った形だ。 「史上最大の圧力」で朝鮮を「先非核化、先武装解除」に追い込めると考えた米国の愚かで誤った判断が招いた結果だ。

非核化交渉を朝米交渉のテーブルから取り下げ「新しい道」を進もうとする朝鮮を翻意させる手段を、あいにくだが米国は持っていない。

トランプ大統領は「軍事力の行使」(12月3日)に続き「すべてを失う」(12月8日)などと恫喝を繰り返しているが、朝鮮側はこれを強く非難した。 朝鮮アジア太平洋平和委員会の金英哲委員長は12月9日に談話を発表して「トランプ式虚勢と威勢が朝鮮人には少し不正常で非理性的に見える」としながら「トランプは、朝鮮についてあまりにも知らないことが多い。 我々は、これ以上失うものがない人々である。 米国がこれ以上我々から何かを奪うとしても、屈しない我々の自尊と我々の力、米国に対する我々の憤怒だけは奪うことができないであろう。」と指摘した。 まったく動じる気配はない。

朝鮮に対する米国の軍事力行使は現実性のないこけおどしに過ぎない。 第二次朝鮮戦争の挑発は安保理の支持を得られないばかりか、戦争で勝つ展望もない。 いや第二次朝鮮戦争を挑発すれば米国は十中八九敗北しよう。 米日間の強硬派は米国が軍事攻撃に踏み切ればたちどころに朝鮮が敗北すると喧伝するのに躍起になっているが、なぜ朝鮮戦争に勝てず、ベトナムで敗北し、今、アフガニスタンから撤退しようとしているのか? 1950年代の朝鮮も、ベトナムも、タリバンも装備、兵器、物量では圧倒的に劣っていたにもかかわらずだ。 歴史も現在も米国が無敵ではないことを示している。

多くの読者はすでに周知していると思われるが、参考までに第二次朝鮮戦争と関連して、2016年3月の米上院軍事委員会でのダンフォード統合参謀本部議長(当時)などの証言を紹介しておこう。

同議長は「朝鮮半島で戦争が起きれば、北朝鮮は特殊部隊の投入や大規模の長距離ミサイルの発射などで主導権を握るかもしれず、多くの人的被害は避けられない」「北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルだけでなくサイバー攻撃まで準備しており米本土のみならず北東アジアの同盟国(日本)まで威嚇している」「好戦的な北朝鮮指導部と世界第4位規模の在来式軍事力、さらには年々強化されている核・ミサイル能力は同盟国の脅威になっているばかりか、米本土への脅威も増している」と述べた。 また、同じく証言に立ったマーク・ミレー陸軍参謀総長(当時)に至っては「北朝鮮とは戦争できない」とまで述べ、その理由について「我が軍隊は満足できるような、戦争を実行する水準でない。 犠牲者、死傷者が相当出てくる」と述べている。

この証言から3年、朝鮮が「国家核戦力を完成」させた現在、武力行使は現実的選択肢足り得ないことに論議の余地はない。

朝鮮が「新しい道」に進めば朝鮮半島の非核化は遠のき、米本土を脅かす核抑止力は否が応でも増強される。

「炎と怒り」「太平洋上での水爆実験」などの過激な言辞が行き交った2017年の朝米間の攻防を振り返ってみる必要がありそうだ。 2017年の攻防は、一言で言えば、「国家核戦力の完成」を目指す朝鮮と、米本土を脅かすICBMの開発を阻止しようとする米国の戦いであったと言える。

当時CIA長官だったポンペオ現国務長官は2017年8月13日、米テレビCBSの番組で、「この政権は、実行する準備もできていないようなレッドラインを設けないことで立派に仕事をこなしている」と述べたうえで、「(大統領が)これまで明確にしてきたのは、北朝鮮が米国に完全に届き、米国と世界を危険にさらすような弾頭搭載の弾道ミサイルを保有することが認められないということだ」「私たちは北朝鮮に、核弾頭搭載のICBMで米国を危険にさらす能力を保有させることはできない。 この使命こそが、大統領が自らの国家安全保障チームに与えたものだ。 ミサイル防衛に加え、これこそが大統領が自らのチームに課した」と述べていた。

トランプ政権はこの「使命」を果たすために「最大限の軍事経済的圧迫」を加えた。 しかし、朝鮮は2017年11月に「火星15」の試験発射を成功させ、米国が阻止しようとした「核弾頭搭載のICBMで米国を危険にさらす能力」を全世界に示すに至ったの周知の事実だ。

度重なる和平交渉提案を無視して体制崩壊を追及する米国に決然と立ち向かう朝鮮の決意の表れで、ICBMの開発を阻止できなかったのは明らかに米国の失敗であり、敗北であったと言えよう。

朝鮮が「新しい道」に進むことを止めることはできない。 それは2017年に続く米国の失敗、二度目の敗北を意味する。 上述したように「新しい道」は「核凍結」解除と同義語で「対話と圧力」路線の破綻をもたらし、朝鮮半島の非核化をはるか遠くに追いやる結果を招くことになる。

もし、こけおどしに過ぎない威嚇や、すでに2017年にあっさりと越えられた「レッドライン」を云々し、「せどり」「労働者の不法就労」などを騒ぎ立てることによって「新しい道」を阻止できると考えるのならあまりにも愚かだ 。朝鮮の「新しい道」は米大統領選挙などをにらんだ当面の戦術的選択ではなく、朝鮮半島の平和と共同繁栄を目指した戦略的選択であることを知るべきだ。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。