M.K通信 (24)ポンペオの詭弁

詭弁とは、故意に行われる虚偽の議論、論法のことだ。 平たく言えば、誤りを正当化するためのこじつけのことだ。

超大国である米国の外交を司る国務長官の卑劣で幼稚な詭弁が朝米交渉を危機に追いやっている一つの原因になっている。 幼稚なこじつけで朝米交渉の実態を歪曲するポンペオ国務長官の言説は聞くに堪えない。 「没知性」とでもいうべき強弁を繰り返して世論を欺こうとしている。

3月18日ポンペオ長官は地元カンザス州で行った記者会見で、「・・・金委員長は昨年6月にシンガポールでトランプ大統領と全世界に非核化を約束し、世界がその約束を見ることができるように書いて行った」「いま我々の前に置かれた課題は、彼にトランプ大統領とこの世界にした約束を履行させることだ」と述べた。 この会見は北朝鮮の崔善姫外務次官が15日に行った記者会見で、生物化学兵器まで含めたすべての大量破壊兵器を先に廃棄すべきとの超強硬論に転じた米国の要求は受け入れられず、米国との非核化交渉の中止を検討しているとの発言を受けて行ったもの。

どうやらポンペオ長官は、昨年6月のシンガポール朝米共同声明で北朝鮮が一方的にすべての大量破壊兵器を廃棄して非核化すると共同声明に「書いて行った」ためその約束を守らなければならないと言いたいようだ。

新たな朝米関係の樹立、強固な平和体制の構築、朝鮮半島の非核化を約束した朝米共同声明をどう読めば、北朝鮮の一方的非核化約束になるのか? ポンペオ長官は識字能力を持っているのかさえ疑わしくなる。 甚だしい詭弁で、朝米共同声明の歪曲・強弁といわざるを得ない。

ハノイ会談で米国が持ち出した要求はリビア方式の再来といえる。 北朝鮮に対する傲慢な武装解除の要求で、狙いは北朝鮮政権の崩壊にある。

6.12朝米首脳会談はリビア方式を否定したトランプ大統領の英断によって実現した。 しかし、それからわずか8か月後に行われたハノイ首脳会談は、米国が再びリビア方式を持ち出すことにより決裂したと言える。

どうやら主犯はポンペオ長官であったようだ。 19日、韓国保守系紙系統のテレビ局JTBCは、米国行政府関係者と会った外交消息筋を引用して「会談決裂はポンペオ長官がトランプ大統領に提案した」と報じた。 ハノイ会談決裂後の記者会見でトランプ大統領がポンペオ長官を同席させ肝心な部分の説明を任したことはやはり偶然ではなかったわけだ。

北朝鮮は制裁の全面解除を要求したとの米国側の説明に、解除を求めたのは民生部分にかかわる一部の制裁だと反論したことは周知の事実。 これに対して「実質的には全面解除を要求」したと強弁したのはポンペオ長官だ。

双方の主張が対立していることと関連してAP通信(3月2日)は、「だれが真実を話しているのか」と問いかけ、米国政府関係者の話として「トランプ大統領が北朝鮮の要求を誇張した。 今回の場合は北朝鮮の話が合っているようだ」と指摘した。 ポンペオ長官の「全面解除」発言も詭弁であることは明らかだ。

考えてみれば、ポンペオ長官は朝米共同声明発表直後から詭弁を弄して、北朝鮮に一方的非核化を求め、朝米交渉を膠着させた張本人であった。 朝米共同声明で示された米国の約束については一切触れず、北朝鮮が約束もしていない「北朝鮮の非核化」(北朝鮮が約束したのは朝鮮半島非核化)を云々しながら制裁強化に奔走してきたのは周知の事実だ。

ポンペオ長官が朝米共同声明を踏みにじり、なぜ、かくも北朝鮮の武装解除、政権崩壊を追及して来たのか? その一端をハノイ会談を目前に控えた2月21日に行った米「FOXビジネス・ネットワーク」とのインタビューでの発言に垣間見ることができる。 ポンペオ長官は、北朝鮮の非核化を「ベルリンの壁」の崩壊に喩えて説明しながら、「私は1989年に若い軍人として東ドイツと国境地帯を巡察していた。誰もベルリンの壁が崩れた時、そのような日が来るとは予想できなかった。 私はここ(朝鮮半島)でも、世界がこれまで誰も予想できなかった非核化に向けた北朝鮮の行動が実現する、そのような日を迎えられることを望んでいる。 私はこれまで我々がしてきたこと、我々が加えた経済制裁、トランプ大統領らが導いた交渉によって、世界が1989年に目撃したような瞬間を私たち皆が迎えられると期待している」と答えたのである。

乱暴に言えば、この発言はポンペオ長官が、冷戦終結後のクリントン、ブッシュ、オバマ政権が24年間も憑りつかれていた「北朝鮮は必ず崩壊する」という妄想にいまだに憑りつかれていることを示すものだ。 東ドイツだけではなく東欧の社会主義国はソ連崩壊とともに崩壊した。東欧社会主義国がソ連と運命を共にしたのは、ソ連に全面的に依存した衛星国家だったからだ。 しかし、自主路線を貫いてきた北朝鮮もベトナムもキューバも崩壊しなかった。 歴史的事実に対する考察もなしに崩壊を夢見ることは非現実的な妄想にすぎない。

本コラムで重ねて紹介したが、クリントン政権下で国防長官を務め、`98~`00年には「北朝鮮政策調整官」としてペリープロセスを提唱、推進したウィリアム・ペリー氏は、韓国紙、日本の有力紙などとのインタビューで、北朝鮮崩壊説に対して次のように述べている。

「私たちは長い間北朝鮮が崩壊するのを待っていた。 しかし、そのようなことは発生しなかった。 それは戦略ではない。 北朝鮮の人々は、厳しい経済状況を耐え抜く覚悟があるように見える。 北朝鮮が崩壊するといういかなる根拠も、(私は)知らない」(「ハンギョレ新聞」2016年10月3日付け)

ポンペオ長官は、妄想に憑りつかれるのではなく、北朝鮮の崩壊を待つことは「戦略ではない」とのペリー元国防長官の指摘に耳を傾けたほうが良いのではないか。

ポンペオ長官は、北朝鮮が先に非核化すれば経済発展の道が開けると声を大にしているが、幼稚な詭弁だ。 「ベトナム式」であれ何式であれ、経済発展は安全保障の担保が前提になる。 北朝鮮が経済総集中路線に転換したのは「国家核戦力」の完成で安全保障の担保ができたからだ。 一方的非核化要求はこの安全保障の担保を取り除くことを狙った邪悪な意図の表れに過ぎない。

北朝鮮の「国家核戦力」は米国の核の脅威に対応したもの。 米国の核の脅威が取り除かれれば北朝鮮にとって核兵器は必要ない。 それが朝鮮半島の非核だ。

ポンペオ長官は、北朝鮮が一方的に非核化する、させられるとの愚かな妄想から早く抜けでるべきだ。(M.K

 

 

 

 

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。