M.K通信 (35)続・「欧米は無敵ではない」

ボクシングに例えれば、3ラウンドTKO負けと言ったところか。 欧米はベネズエラで完敗と言える敗北を喫した。

ベネズエラでは選挙で民主的に選出されたマドゥロ大統領と彼の政権を打倒するための軍事クーデターが、米国の全面的な支援下で進められてきた。

ペンス副大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン安全保障担当補佐官が雁首をそろえて正面からマドゥロ政権打倒工作を展開したことは、米国がいかにマドゥロ大統領放逐と傀儡政権樹立に腐心していたかを物語る。 昨年11月、キューバ、ベネズエラからの亡命者が多く住むマイアミで演説したボルトン補佐官は、ベネズエラとキューバに対する経済制裁を強化し、キューバによるベネズエラ支援にくさびを打ち、マドゥロ政権を孤立させると同時に内部分裂を惹起させ打倒する意図を露わにした。 さらにこれを出発点に、自らが「暴政のトロイカ」と呼ぶ残ったキューバとニカラグアでも順次体制転換を図る狙いを隠そうともしなかった。 一方、ペンス副大統領はグアイド国会議長をして、今年1月に「暫定大統領宣言」を行わせた。 これを受けポンペオ国務長官は国務省をフル動員してイギリス、ドイツなどの、米国に追従する同盟諸国にグアイド「暫定大統領」を「承認」させた。 マドゥロ政権が存在するにもかかわらず、米国が勝手に「暫定大統領」を決め諸外国の「承認」劇まで繰り広げられたことは、外交の歴史に類がない笑止な茶番と言わざるを得ない。

米国のお膳立てに従い、4月30日グアイド「暫定大統領」を中心とする反体制派による軍事クーデターが決行された。 グアイドはこの日の早朝カラカスの空軍基地の前で、野党指導者と一部の軍人を従え、軍と市民に「決起」を呼び掛けた。 同時刻ポンペオ国務長官はワシントンで、マドゥロ大統領がキューバに亡命するため軍用機を準備しているとの虚偽情報を流し「マドゥロ大統領は即刻ベネズエラを去れ」と叫び続けていた。 また一部の報道によれば、軍事クーデターの様子が分刻みでトランプ大統領に報告されていたとされ、米国が軍事クーデターの成功を確信していたことを伺わせる。

しかし、結果は全世界が周知するとおりだ。 軍も市民も「決起」の呼びかけに応じず、軍事クーデターはわずか数時間で鎮圧されてしまったのだ。 トランプ政権の中枢を占める「ネオコントリオ」の全面的関与にも関わらず、マドゥロ政権の打倒どころか、米国が育て上げた反体制勢力の瓦解を招いた無残な結果は何を意味するのか!

ベネズエラでの出来事は、劣化し金属疲労を起こしている欧米政治勢力の堕落と無能ぶりを見せつけている。

「ネオコントリオ」がマドゥロ政権打倒の名分に掲げたのが「民主主義の復活」というものだが、これは偽善に過ぎない。 民主的な手続きを経て成立したマドゥロ政権を「独裁」と強弁し、軍事クーデターという非民主的な方法で政権打倒を図るという、奇異な構図自体が偽善であることを示すものだ。

元ウズベキスタン駐在英国大使であるクレイグ・マレーは自身のブログで次のように述べている。

「リビアやイラクやベネズエラのように、石油埋蔵量が豊富だが、アメリカにくみしようとしない国々には、自由民主主義を、武力で、急いで押しつけようとすることが多いのに、例えばサウジアラビアのように、膨大な石油埋蔵量があっても、アメリカの軍事支配を認め、欧米やイスラエルにくみする国なら、どれほど好き勝手に非民主的であっても良いというのは奇妙だ。 ベネズエラの民主主義は不完全だが、サウジアラビアより遥かに民主的で、人権実績でも、ずっとましだ。 欧米メディアと政治家の偽善は驚異的だ。」(マスコミに載らない海外記事、「ベネズエラと二者択一」

米国にとって、欧米勢力にとって大事なことは、民主主義と人権ではなく親米か否かにあり、マドゥロ政権打倒の名分に掲げられた「民主主義の復活」は「驚異的な偽善」に過ぎないというわけだ。

クレイグ・マレー元大使は、BBCの報道を実例にさらに欧米マスコミの偽善についても次のように指摘している。 「マスコミは『抗議行動参加者』に対する放水銃の映像や、抗議集団に激しく突っ込む軍用車両の恐ろしい映像で満ちている。 だがそれは全て、その軍用車両が何時間も投石され、火炎瓶で火をつけられ、発砲されている映像を削除するため極めて入念に編集されたものなのだ。 この見せ方は実に衝撃的だ。」

軍事クーデターに失敗した米国は、ロシアやキューバを非難しながらベネズエラに対する制裁を強化するだけではなく、「軍事行動」をもちらつかせている。 これに従い欧米のマスコミはマドゥロ政権に対する「悪魔化キャンペーン」を続けている。 日本の大手マスコミも右に倣えだ。 欧米とそれに追従する日本の大手マスコミによる偽善に惑わされれば真実を見失う結果を招く。

ベネズエラでの敗北はシリア、アフガニスタンに続き、欧米は無敵ではないことを示すもう一つの事例だ。 シリアでは欧米が支持する反体制勢力が最後の拠点として立てこもったイドリブから放逐されるのは時間の問題だ。 アフガニスタンでもタリバンの勝利が近づいている。(M.K通信(19)「欧米は無敵ではない」参照)

ベネズエラで敗北したトランプ政権の「ネオコントリオ」は、戦線をイランに拡大し軍事的恫喝をエスカレートさせているが、イランの強力な反撃を招き立ち往生している。 朝鮮半島でも同様だ。 北朝鮮に一方的な非核化を迫ることがいかに愚かな行動であるかは遠からず身をもって知ることになろう。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。