M.K通信 (49)「北極星」と朝米交渉

10月4、5日に行われた朝米実務交渉を目前に控えた10月2日、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」の水中試験発射を行い成功させた。 これは2016年8月に行われた「北極星1」の試験発射に続くもの。 また去る7月22日に金正恩委員長が視察した新型潜水艦建造2か月半後のタイミングで行われた。

SLBMである「北極星1」と「北極星3」、地対地中長距離ミサイル「北極星2」からなる「北極星」系の兵器体系は、ワシントンも射程に収めるICBM「火星15」をはじめとする「火星」系兵器体系と並ぶ、北朝鮮の戦略兵器だ。

「北極星3」の水中試験発射を「成功」と伝えた朝鮮中央通信は、「朝鮮に対する外部勢力の脅威を抑止し、国の自衛的軍事力を強化するうえで、新しい局面を開いた重大な成果」と強調した(3日)。 また朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は4日、「地球を見下ろすわれわれの北極星」と題した政論を掲載し、北朝鮮が「北極星3」の水中試験発射成功をいかに重視しているのかを示した。 「労働新聞」はこの記事で、「われわれの北極星は単純な戦略兵器の誇示である前に、全世界に送る偉大な朝鮮人民の威力ある声明」「厳かな声明」であるとした。 また同紙は、「広くて深く見えない海の中のどこにでも、われわれの北極星は発射地点を設定することができ、その射程半径は想像に余りあり、我々は真に強大な国力を備えた」と指摘した。

周知のようにSLBMは、爆撃機および大陸間弾道ミサイルと並ぶ主要な核兵器運搬手段で「核の三本柱」「3大戦略資産」などと言われており、冷戦終結以後は、露出し敵の攻撃に脆弱な爆撃機および大陸間弾道ミサイルに比べ秘匿性と生残性に優れていることから、核戦力の主戦力とみなされるようになっている。 SLBMを自力で開発、運用している国は米国、ロシア、中国に加えインドと北朝鮮だけである。 フランスも所有しているが、米国の技術支援で開発したもの。 またイギリスは米国のSLBMを導入し運用している。

大国であるインドはともかく、厳しい制裁下にある北朝鮮が、SLBMを自力で開発した、世界でわずか数か国の一角を占めるようになったことは、北朝鮮を「後進国」と蔑んできた韓米日と欧米勢力にとって、大きな、そして信じられない衝撃であったことは想像に難くない。

おそらくこのためであろう。 韓米日の反北朝鮮勢力が「北極星」の成功を貶めるのに躍起になっているのは・・・。

米統合参謀本部のライダー報道官が3日記者団に、潜水艦ではなく水中発射台から発射されたとの推測を述べたのはその代表的事例だ。 ライダー報道官は記者の質問に答える中で、「潜水艦から発射された状況はない。 水中発射台から発射されたものとみられる」と述べたと報じられている。 しかし、「水中発射台から・・・」云々の根拠は示されなかった。 さらにこの発言は、発射実験が行われた場所、前後の状況、ロフテッド軌道で打ち上げられた「北極星3」の高度が千キロに達した実験結果などとの整合性もまったくない。

この発言を機に韓米日のマスコミはライダー報道官発言を既成事実化して報じている。 2016年8月の「北極星1」の試験発射の時もそうだが、北朝鮮は水中発射台でおこなう射出実験を報じたことはない。 また今回の場合実験は元山湾沖で行われており、射出実験であったならば、潜水艦基地がある新浦から動力のない水中発射台を延々130キロの距離を曳航し実験を行ったことになる。 水中射出実験であるならわざわざ130キロ曳航することなく新浦で行えばよいだけのはなしだ。 ライダー報道官の話は「北極星」の成功を貶めるための幼稚な作り話に過ぎないようだ。 もしかしたらライダー報道官は水中射出実験と水中発射実験の区別もついていないのかと疑わせるほど低レベルの話だ。

「北極星3」が「北極星1」に比べ大幅にグレードアップされたSLBMであることは北朝鮮が公表した映像を見れば一目瞭然だ。 まずロケットの先端部分が尖った形状から球体に代わり、「北極星1」に見られた姿勢制御のためのグリッド・フィンがなくなっている。先端部分の球体から「北極星3」が多弾頭ミサイルであるとの分析が説得力を持ち、グリッド・フィンは推力制御の改善を示し、これはスピードと射程距離にも関係する。

「北極星3」の開発にあたり金正恩委員長が直接新しいエンジンの制作を指示していたことは半ば公開されていたが、これらを総合すると「北極星3」は「北極星1」と2に比べ、射程距離、破壊力などなど、大幅にグレードアップされたSLBMであると見て間違いない。

北朝鮮は「火星」系とは異なり、「北極星」についてはロフテッドで打ち上げたこと以外高度を明らかにしていない。 2017年に2度試験発射された「北極星2」について、高度550キロとの韓国軍の発表に基づき韓米日当局は射程2千~2千500キロ前後とした。 ところが韓国軍が高度910キロと発表した「北極星3」の射程について、韓米日政府は2千キロ前後であるとマスコミに流している。 自らが流布してきた「北極星2」の高度、射程と比べてみても整合性がまったくなく、いかに場当たり的な説明であるかは一目瞭然だ。 このためか韓国の保守系紙「東亜日報」(10月4日付け)は、「一部では北極星3型の最大射程距離がグアムなど米軍の戦略拠点を余裕で攻撃できる5千キロに達するという分析もある」と報じざるを得なかったようだ。

「北極星2」の射程距離が2千~2千500キロというのは韓米日のプロパガンダで、米国の専門家の中には3千~5千500キロとする分析がある。 より事実に近いとみられ、「北極星3」の最大射程距離は5千キロをはるかに上回ると推察される。 また色眼鏡を外してみれば、「北極星3」はトライデントⅡの技術水準に達していると判断するする観察者もいる。

10月5日の朝米実務交渉が決裂したのは、ボルトンは政権外に去ったが、同氏が執拗に主張し続けた「リビアモデル」が生きており、米国が「寧辺+α」や「ロードマップの作成」など、一方的非核化要求を繰り返したためであろう。 北朝鮮は米国が古い一方的な武装解除論を引っ込め敵対政策を根本的に改めない限り朝鮮半島の非核化交渉には応じないと重ねて明らかにしている。

北朝鮮による「北極星2」の試験発射を受けスプートニクに掲載(2017年2月14日)された「北朝鮮の弾道ミサイル「北極星2号」はTHAADを突破できるか?」と題したルポ記事は、固体燃料で移動発射台から素早く発射される「北極星2」のシステムは米国の偵察衛星を無力化させたとしながら「このシステムが、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)を凌駕する手段として用いられることも排除できない」と指摘した。 続けて同ルポは「おそらく、北朝鮮を対等な国家として認め、この国に対する態度やレトリックを変える時がやはり来たのではないか。 もしこの国が、短期間にあれだけの先端的なミサイル総合兵器を作り出せるのであれば、制裁に意味がなく、彼らへの政治的圧力に対して、どういった答えが返って来るかは、全くもって明らかだからだ。」

「北極星2」を大きく進化させたSLBM「北極星3」は、「火星15」と並ぶ強力なゲームチェンジャーだ。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。