M.K通信 (87)新しいステージに入った朝米関係

対朝鮮政策を「再検討」するとしていたバイデン政権が広範な韓国市民団体の反対にもかかわらず、米韓合同軍事演習(8日~18日)に踏み切った。

対朝鮮政策「再検討」結果を待つまでもなく、米国が代わり映えのしない圧力政策に終始するであろうことを予告するものだ。

それにしても奇妙な合同軍事演習である。

開始と同時に、「規模縮小」と「防御的目的」を声高に叫ぶかと思えば、演習の名称すら明らかにできないと隠している。 さらに文在寅政権は統一部をして、「平和プロセスを支える」と詭弁を弄し、朝鮮側の「柔軟な対応」を哀願している。

朝鮮への侵攻、制圧を目的にした軍事演習を強行しながら、朝鮮を刺激すまいと神経質になっている姿は実に滑稽である。 朝鮮の反撃を半ば恐れながら行う米韓合同軍事演習は、もはや以前のような朝鮮に対する威嚇手段としての価値が消滅しており、南北関係の改善を望む韓国世論の支持も得られなくなっていることの証左と思われる。

「米国本土を脅かす実際的な脅威」

朝鮮が「国家核戦力」を完成させ引き続き高度化させていることの結果であることは言うまでもない。

核問題をめぐる朝米間の争いは新しいステージに入っており、合同軍事演習の変容はその反映であると思われる。

2月23日、ハイテン米統合参謀本部副議長が▲「われわれの国家ミサイル防衛能力は現在中ロ、イランではなく明らかに北朝鮮に焦点が合わされている」▲「米国本土を脅かす実際的な脅威は北の核と   ICBM」と述べている。 さらに同副議長は朝鮮のミサイル「迎撃には限界」があるため、「発射の左側」に焦点を合わせた防御戦略」を推進する意思を示した。 「発射の左側」とは、発射準備の段階でミサイルを破壊するというもの。 簡単に言えば朝鮮の米本土を狙うICBMも、駐韓米軍基地、特に空母と原子力潜水艦が寄港する釜山港を狙う戦術飛翔体も、迎撃することができないので発射前に破壊しなければならないと言っているのだ。 だからと言って「発射の左側」が可能かと言えば、ミサイルサイロではなく移動式の発射台を縦横無尽に駆使する朝鮮のミサイル発射を事前に探知して破壊することも不可能であろう。 その難しさは米軍が誰よりもよく知っており、ハイテン発言は朝鮮のミサイルに対処する方法は現実にはなくお手上げであることを示すものだ。

敵対政策が招いた「国家核戦力」

十年一昔というが、米国が朝鮮に一方的に核恫喝を加えてきた時代は去り、米国が朝鮮の核ミサイルに、迎撃手段もなく、現実的でもない「発射の左側」を云々しながら怯える時代になった。 まさしく驚天動地の大事件と言ってしかるべきだ。

国際的な冷戦終結から今日に至るまで朝米間の核攻防が続いているが、その推移をみると、朝米ジュネーブ合意に基づく対話の時期と、6者会談破綻を契機にする朝鮮の核開発から「国家核戦力の完成」までの期間に分けられる。

朝鮮は1993年3月、クリントン政権の核問題を口実にした体制崩壊追及に対抗してNPTからの脱退を宣言するが、朝米対話とジュネーブ合意の成立で、脱退を臨時的に一時停止する処置をとった。 朝鮮の臨時措置は、米国が約束を守ればNPT体制に留まる、つまり核開発には踏み込まないとの意思の表れであった。

しかし米国は、クリントン、ブッシュの両政権にわたり軽水炉提供、平和和体制の確立などの約束を守らず体制崩壊への圧力を強化した。 これに対して朝鮮は2003年1月10日、政府声明を発表して臨時措置を撤回、NPT脱退を宣言した。 政府声明は「核拡散防止条約からの脱退はわが共和国に対する米国の圧殺策動と米国に追従する国際原子力機構の不当な仕打ちに対する当然の自衛的措置」と指摘していた。

朝鮮が核開発に本格的に取り組むのは、2期目に入ったブッシュ政権が朝鮮との共存を否定、崩壊戦略を露骨化したため。 2005年2月10日に発表された朝鮮の政府声明は、敵対政策に対する対応として、6者会談の無期限中止と「核兵器庫を増やす措置をとる」と指摘、本格的な核開発へ移行することを明確に宣言した。 この声明から「国家核戦力の完成」に至るまでのことについては説明するまでもない。

朝鮮が核開発に至ったのは、NPTに留まり対話によって朝鮮半島の平和を実現するための努力が米国の敵対政策によって不可能になったことが原因であることがわかる。

核対核の第三ステージ

朝鮮がNPTにとどまり朝米対話による平和構築に期待した期間を第一ステージ、「国家核戦力完成」までの期間を第二ステージとするなら、朝米首脳会談合意の破綻を契機に、朝米関係は第三ステージに入ったと言える。

第三ステージの特徴は、朝米が核対核で正面から対峙すする局面に入り、一方的な核恫喝も、一方的な「非核化」要求も無意味に化したことだ。 朝鮮が迎撃不能なICBMを所有した状況で、一方的で高圧的な「非核化」要求は、意味をなさなくなった。

バイデン政権は「北朝鮮政策の再検討」を進めているが、それはあくまで一方的「非核化」実現のためであり、朝鮮側はこれを相手にせず、固体燃料ICBM、極超音速弾道弾の開発など、核抑止力強化を進めると宣言している。

核兵器による威嚇と軍事的圧力が朝鮮の核抑止力によって相殺された新たなステージで、米国に残されたただ一つの手段は経済制裁だ。

朝鮮と米国に経済関係はない。 米国の経済制裁は朝鮮と経済関係が深い中国・ロシアを巻き込んでこそ効果を発揮できる。

中米関係が悪化する中で、中国を新たな制裁に巻き込むことができるのか、疑問視されるところだが、ブリンケン国務長官は「米国の中国との関係は、必要なときは競争的、可能なときは協力的、必須なときは敵対的」になると述べている。 「可能なときは協力的」との言辞が示すように米国は、中国の協力を求めて朝鮮に対す圧力を強めようとするだろう。 圧力を強めて、朝鮮を「対話の席に座らせる」と公言しているブリンケン発言は、中ロを経済制裁に巻き込むことを念頭に置いたものとみられる。

しかし、中米対立が激化している状況で、2017年末のトランプによる「史上最大の圧力」を可能にした対米妥協、朝鮮半島の南北に対する「重南軽北」政策の維持が可能なのかどうかは極めて疑わしい。

正面突破とは

朝鮮が2019年末の党会議で打ち出し、今年初めの党第8回大会でより体系化された正面突破戦略は、米国による経済制裁、特に2017年の「史上最大の圧力」を念頭に置いたものであることに留意すべきだ。 中露を巻き込む米国の圧力戦略の成功いかんにかかわらず、自力自強、自力繁栄を成し遂げるというのが正面突破だ。

「内部の力を全面的に整備し再編成し、それに基づいて全ての難関を正面突破して新しい前進の道」を切り開くというのが、年初の党大会で打ち出された方針。 この方針は「朝米対決は今日に至り、自力更生と制裁との対決に圧縮され、明白な対決の絵を描いている」(朝鮮労働党中央委員会第7期5回全員会議の報告、2019年12月)との認識にも基づいたもので、経済的圧力を正面突破しようというもの。

ICBMと精密誘導兵器を自力で作り出したレベルの高い工業力と、これを支える精神力と確かな技術、豊富な資源に裏打ちされた自力更生は解放直後から堅持されてきた路線で単なるスローガンではない。 トランプの禁油制裁にも関わらず、重油、清製油の中ロからの輸入は制裁上限を大幅に下回っており、中ロを巻き込んだ「史上最大の圧力」はすでに破綻している。

朝鮮が打ち出している正面突破戦略は、米国の一層露骨化する敵視と圧力を想定したもので、バイデン政権の「北朝鮮政策再検討」の結果によって揺らぐものではない。 「強対強」の対米方針が示すように、「非核化圧力」には核抑止力の高度化で対応するだろう。

朝米対決は新たな局面に入った。

※※※

伝えられるところによると、朝鮮、キューバ、イラン、ロシア、中国を含む16か国のグループは、西側による一方的な制裁と武力の脅威に対抗するために、国連で連合を創設することを推進しているという。 このグループにはシリア、パレスチナ、ベネズエラ、アルジェリア、アンゴラ、ベラルーシ、ボリビア、カンボジア、エリトリア、ラオス、ニカラグア、セントビンセントおよびグレナディーン諸島も含まれている。

米国はアジアと朝鮮半島だけではなく、世界各地で大きな抵抗に直面している。

「アメリカは、なによりも、国内でも国外でも、自身の避けられない衰退に抵抗している」(Salman Rafi Sheikh.「New Eastern Outlook」2021.2.18)(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。