朝米首脳会談延期、「トランプレター」に滲む未練、朝鮮は対話解決の用意あり

トランプ大統領が24日、6月12日にシンガポールで予定されていた金正恩国務委員長との首脳会談の中止を発表、金委員長にその旨を伝える手紙を送った。

予定日から3週間を切ったこのタイミングでの唐突な発表に、朝米和平と朝鮮半島情勢の安定化を望まない日米韓の強硬派からは「それ見ろ」「トランプ大統領は6月に北朝鮮を潰す気だ」と大喜びのコメントが湧き出している。

だが、これで朝米首脳会談が完全に霧散した訳ではない。 何故ならトランプ大統領は6月12日の開催は中止すると言ったが、今後一切首脳会談を行わないとは一言も発していないからだ。

これは見落とされがちな事なのだが、まるで事態がこうなることを予測していたかの如く、朝鮮側は今日まで首脳会談開催の政府公式発表を行っていない。 今まで報道や政府関係者から、朝米首脳会談が近いうちに行われるであろうとの流れがあっただけだ。

今回、6月12日の朝米首脳会談が中止になったのは、日本や米国のマスメディアが言うところの「態度を突然硬化させて揺さぶりをかける朝鮮に対し、アメリカの忍耐が限界に達した」からというものではない。

朝鮮は、①2度にわたるポンペオ国務長官の破格的待遇で首脳会談実務交渉、②通常レベルでの韓米合同軍事演習実施に対する理解、③3人の米国籍人スパイの釈放、④24日の核実験施設の放棄など、朝米首脳会談に向けた環境を整えるために着実に準備を進めた。

ところが、アメリカではトランプ大統領が政権をハンドリング仕切れず政府内ネオコンの暴走を招いた。

超強硬派のボルトン大統領安保担当補佐官の朝鮮に対する「リビア方式適用」発言、 11日から始まった米韓航空戦闘訓練「マックスサンダー」へのB-52爆撃機増派を予定する等、対話相手に対する挑発ととれる敵対行為を見せ、朝鮮側の不信感を買った。

極めつけは21日のペンス副大統領のFOXニュースとのインタビュー。 朝鮮は崔善姫外務省次官の談話で激しく非難、「我々は米国に対話を哀願しないし、米国が我々と対座しないというなら敢えて引き止めないであろう。米国が我々と会談場で会うか、でなければ核対核の対決場で会うかどうかは、全的に米国の決心と行動いかんにかかっている。米国が我々の善意を冒涜し、引き続き不法非道に出る場合、私は朝米首脳会談を再考慮する問題を最高指導部に提起するであろう。」と牽制した。

これに内心慌てたのはトランプ大統領だ。

「会談をやるかも知れないし、やらないかも知れない。 様子を見よう」と周囲を煙に巻いてきたが、体面もあるだろう、24日になって突然、「中止の手紙」を朝鮮側に送った訳だ。

トランプ大統領の手紙を読み解くと、まるで初恋の人との初デートが延期になった少年の残念さと未練と願望のような思いが読み取れる。

以下はトランプ大統領の手紙全文。

「金正恩国務委員長 閣下 朝鮮民主主義人民共和国 平壌

親愛なる 委員長へ

我々は、シンガポールで6月12日に予定されていた会談のための協商と、貴方が費やした時間と努力に感謝しています。
我々は、この会談が北朝鮮からの提案であるという情報を得ましたが、それはあまり問題ではありません。
私は、その場所で貴方と会えることを期待していました。 残念ながらあなた方が出した声明に込められた激しい怒りと大きな敵意に接し、私は現時点での対話は不適切であると感じました。
あなた方は核能力について指摘しましたが、我々の力はあまりにも巨大で、この先それを貴方達に使う機会がないことを神に祈るばかりです。
私は、我々の間の対話が立派であったと感じましたし、結局のところ一番大事なのは対話だけです。
いつの日か、貴方と会えることを信じています。
この間、貴方が三人の抑留者たちを解放してくれたことに感謝いたします。それは、とても美しい行動であり非常に感謝しています。
もしも貴方が、首脳会談について考え直す事があれば、躊躇せずに私に電話や手紙を下さい。
世界は、特に北朝鮮は、永続する平和と繁栄のための大きな機会を逸しました。
これは、歴史における真に悲しき瞬間です。

アメリカ合衆国 ドナルド・トランプ」

トランプ大統領としても、このまま朝米首脳会談を霧散させたくないと言う気持ちが透けて見える。

朝鮮側は、今回のトランプ大統領の立場表明が朝鮮半島はもちろん、世界の平和と安定を願う人類の念願に合致しない決定だと断定、トランプ大統領が取り上げた「大きな憤怒と露骨な敵対感」というのは事実上、朝米首脳の対面を控えて一方的な核廃棄を圧迫してきた米国側の度の過ぎた言行が招いた反発にすぎないとの見解を示している。

トランプ発表を受けて、朝鮮側も外務省金桂官第1次官が委任(これ重要!)によって談話を発表した。

金第1次官は談話で、この忌まわしい事態は、歴史的に根深い朝米敵対関係の現実態がどんなに重大であり、関係改善のための首脳の対面がどんなに切実に必要であるのかをありのまま見せていると指摘、「歴史的な朝米首脳の対面について言うなら、我々はトランプ大統領が過去のどの大統領も下せなかった勇断を下して、首脳の対面という重大な出来事をもたらすために努力したことについて、依然として心のうちで高く評価してきた。 ところが、突然、一方的に会談の取り消しを発表したのは、我々としては意外のことであり、非常に残念に考えざるを得ない。」とトランプ大統領の心意気に対して一定の評価をて見せた。

また、「首脳の対面に対する意志に欠けてか、でなければ自信がなかったせいか、その理由について推し量るのは難しいが、我々は歴史的な朝米首脳の対面と会談自体が対話を通じた問題解決の第一歩として、地域と世界の平和と安全、両国間の関係改善に意味ある出発点になるとの期待をかけて誠意のある努力を尽くしてきた。 また、『トランプ方』というものが双方の懸念を共に解消し、我々の要求条件にも合致し、問題解決の実質的作用をする賢明な方案になることを密かに期待したりもした。

我々の国務委員長も、トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べて、そのための準備に努力の限りを尽くしてきた。 にもかかわらず、米国側の一方的な会談の取り消し公開は我々をして今まで傾けた努力と我々が新しく選択して進むこの道が果たして正しいのかということを再び考えるようにしている。」と牽制した。

金第1次官は「朝鮮半島と人類の平和と安定のために全力を尽くそうとする我々の目標と意志には変わりがなく、我々はつねにおおらかに開かれた心で米国側にタイムとチャンスを与える用意がある。 一分は寸の始まりと言われるが、会ってひとつずつでも段階別に解決していくなら現在より関係が良くなるはずであって、より悪くなるはずがないということぐらいは米国も深く熟考してみるべき」と指摘、朝鮮は、いつでもいかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があるとアメリカに示した。

事態を打開するには、トランプ大統領がネオコンの呪縛から抜け出し、自らの強い意志を持って朝鮮と向き合う他にない。 平壌はいつでも門戸を開いている。 トランプ大統領は行動で示すべきだ。

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。