「専門家の個人的主張」に振り回されるメディア

コリョ・ジャーナル

アメリカのワシントン・ポスト(WP)紙が30日、朝鮮が新たなICBMの開発を行っていると「米政府高官筋」が明らかにしたという速報を飛ばすと、欧米メディアや日本のメディアはこぞってこれに飛びついて「北朝鮮の核開発継続の懸念」を嬉々として大々的に報じた。 まるで、朝鮮が朝米首脳会談の合意を破るのを待ち望んでいたかのように。

ロイター通信が「研究施設から車両が出入りする様子が衛星写真にとらえられているが、ミサイル製造の状況については確認できていない」と伝えたように、根拠という衛星写真には車両が移っているだけで、その実情は何も解っていない。

それもそのはず、今回のWP紙の報道は「一個人の願望的予測」に過ぎなかったのだから。

そもそも、今回問題となった画像はアメリカの人工衛星画像会社プラネット・ラボが29日に撮影、ミドルベリー国際学研究所の「専門家」が分析した結果、そこに新たに建設された2棟の建物(管理棟と博物館とみられる)が映っていたというもの。 ここを車両が出入りしていたらしい。

ワシントンポスト紙はルイス氏の「個人的主張」に飛びついた

この「専門家」、同研究所の東アジア不拡散プログラムディレクター、ジェフリー・ルイスなる人物なのだが、WP紙が「匿名の米情報機関職員」が最近分析した人工衛星画像に基づき、「匿名の情報機関筋の話」として朝鮮で新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造が活発化していると伝えた情報源が、このルイス氏個人だったことが明らかになった。

ルイス氏はWP紙に「そこ(山陰洞基地)は稼動している。コンテナ貨物や車両が出入りするのを見ることができる」とし、ミサイルの製造作業がまだ進行中だと主張、現場の施設と撮影された車両の写真一枚のみでミサイルが追加開発されていると断言した。

ルイス氏はまた、「北朝鮮は、彼らの核兵器を放棄する為に交渉しているのではない」「彼らは核兵器を認定させるために交渉中」と主張した。

これと関連して韓国のWEBサイト「民衆の声」が実に面白いことをやってくれた。 「民衆の声」は1日、ルイス氏に直接連絡、主張の追加根拠を示すことを要求した。

するとルイス氏は「重要なのは、北朝鮮が決して武装解除(disarm)を提案したことがない事実」「シンガポールサミットで何が起こったのか、嘘をつくのは金国務委員長ではなく、トランプ政権」と、自らの政治的主張にすり替えた。

核施設を爆破するなどの朝鮮の行動は「詐欺」や「フリ」だと思うかとの記者の質問に対し、ルイス氏は「善意のジェスチャー(goodwill gesture)であるだけ」と答えたが、トランプ政権がシンガポール首脳会談についてどのような嘘をついているかという質問に対しては、回答を避けた。

朝米関係問題に関してみる場合、「匿名の情報当局者」を引用したネガティブ報道の実体を調べて見ると、交渉進展を快く思わない、いわゆる「専門家の個人的主張」に過ぎなかったことが一度や二度ではない。

米国政府当局も、自らの意志でリークしない限りは、そのような報道と自分たちは「関係がない」とう立場から「ノーコメント」で一貫している。

事実、今回のWP紙の報道については、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)関係者も1日、「我々は、このような性格の報道に関してはコメントしない」と公式立場を明らかにしていし、米国務省関係者も「我々は、情報事項についてはコメントしない」という立場を明らかにした。 米国防総省関係者も「我々は、このような報道について提供する、いかなる立場や氏名(statement)を持っていない」と一線を引いている。

ナウアート国務省報道官は31日、記者へのブリーフィングで、「金国務委員長がトランプ大統領に約束した非核化については、合意通り実行すると期待している」と述べ、WP紙の報道内容を牽制している。

メディアには「専門家の個人的主張」に振り回されないでいて欲しいものだ。(Ψ)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。