M.K通信 (4)朝米合意は「きちんと作動していない」

当サイトでも紹介されているが、去る15日、ジョセフ・ユン前米国務省北朝鮮担当特別代表が「米国と北朝鮮がいかに失望のサイクルを打ち破ることができるだろうか」という題名の寄稿文をワシントンポストに寄せ、ワシントンと平壌に「相互連絡事務所」を設置することを提案した。

ユン前特別代表はこの寄稿文で①朝米が、「段階的・同時的解決策」と「完全かつ即刻的な非核化」を主張して対立する状況に言及し、「危機のサイクル」に陥る結果を避けるため、「米政府は外交的過程の幅を広げなければならない」と指摘、「相互連絡事務所」の設置を提言②「シンガポール合意について自主的解釈にこだわるあまり、一方的な非核化要求だけに固執するのは、きちんと作動していない」との認識を示し③「シンガポール首脳会談以降、最大限の圧迫戦略は効力を失った」と指摘、「相互連絡事務所」の設置は米国の孤立を防ぐ「核心的な処置」だと述べている。

意味深長な提言で朝米交渉に少なからぬ影響を及ぼしそうだ。

ユン前特別代表の提言は、日本の大手マスコミでは報じられておらず黙殺されているようだ。朝米合意に対するネガティブキャンペーンを続けるマスコミの狭量さを示すもので、世論を誤った方向に導きかねない。

それはさておき、ユン前特別代表の提言で注目されるのは、「トランプ政権が北朝鮮との外交的過程を広げていくため、今一度合意文を読み返さなければならない時」だとし、「シンガポール合意について自主的解釈にこだわるあまり、一方的な非核化要求だけに固執するのは、きちんと作動していない(こと)」だと指摘したことだ。

朝米共同声明に照らしてみれば、一方的非核化要求が、その趣旨に反していることは誰の目にも明らかである。

ジョセフ・ユン氏が米国務省北朝鮮担当特別代表を務めたのはオバマ前政権下でのこと。オバマ政権が「戦略的忍耐」を掲げ、露骨的な核による恫喝と制裁の圧力一辺倒を貫いたのは誰もが知るところである。

トランプ大統領が朝米首脳会談を進めるのに当たり、オバマ政権の強硬一辺倒の北朝鮮政策をになったジョセフ・ユン氏を米国務省北朝鮮担当特別代表職から排除したのは当然のことであった。

そのジョセフ・ユン前特別代表の提言は、朝米合意に反対するネガティブキャンペーンが大々的に行われ朝米交渉が膠着状態に陥ったタイミングでなされた。

またその内容は、ネガティブキャンペーンを否定し、トランプ大統領が署名した朝米共同声明に寄り添ったものだ。

ネガティブキャンペーンを懸命に行っている強硬派の実態は、何としてもトランプ大統領の再選を阻止し、政権の奪還を狙う「リベラルホーク」と言われる民主党タカ派とネオコンである。両者は政策的共通点を持つ。

トランプ大統領と争い敗北したヒラリー・クリントンは「リベラルホーク」を代表する政治家で、オバマ前大統領もまた「リベラルホーク」の有力政治家である。

ネオコンが主導したブッシュ政権下でのイラク戦争を支持した民主党のタカ派を「リベラルホーク」と呼んだことがはじまりで、民主党がイラク戦争に反対する勢力とに二分した。

ネオコンの強硬路線を引き継ぎリビアに軍事介入してカダフィ政権を最終的に崩壊させたのはオバマの「リベラルホーク」政権であった。

朝米首脳会談を準備する過程で、北朝鮮を激怒させトランプ大統領が否定した「リビア方式」はネオコンと「リベラルホーク」の強硬な介入政策が生んだものだ。

「リビア方式」の再現を狙った北朝鮮に対する一方的非核化要求は、次期大統領選挙を左右するとされる中間選挙を前に激しさを増している、「リベラルホーク」とネオコンによる反トランプネガティブキャンペーンの一環で、悪質なフレームアップを伴って行われている。

ジョセフ・ユン前特別代表の朝米合意に寄り添った提言は、「リベラルホーク」からすれば、自らが登用した官僚による「背信」であったのかもしれない。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。