M.K通信 (8)「名誉ある撤退」

米国がアフガニスタンで「名誉ある撤退」を余儀なくされている。

アフガニスタンでの米国の戦争は、去る2001年にブッシュ政権が始めた。タリバンを「悪魔化」するプロパガンダを展開し、その政権を「テロの温床」と決めつけ、軍事介入によるタリバン政権打倒を正当化した。

それから17年、政権を追われたタリバン武装勢力の激しい抵抗に会い、アフガニスタンでの米国の戦争は泥沼に陥った。その期間はベトナム戦争(1964年-75年)を超え史上最長となり、米軍の戦死者だけでも数千人にのぼり、戦費は1100億ドルを超えている。

にもかかわらず、タリバン掃討はおろか、タリバン武装勢力によって米軍が駐留する首都カーブルまで脅かされる事態に至っている。

米国に追従してタリバンを「悪魔化」してきた日本のマスコミでは伝えられていないが、既にタリバンは国土の70%を掌握しており、カーブル傀儡政権は為す術を失っている。

米軍とその支援を受けるカーブル政府軍に比べ、兵器においても兵力においても比べ物にならないタリバン武装勢力がよみがえった要因は、西側が「悪魔」と描写したタリバンに対する国民の支持であろう。アフガニスタン国民からみれば、タリバンは決して「悪魔」ではなく、外国の侵略に勇敢に立ち向かう国民の戦士なのであろう。西側は決して認めないであろうが結果はそれを示している。

トランプ政権は、かつて米国が「テロ組織」と罵倒し壊滅しようとしていたタリバンとの交渉に踏み切った。ベトナム戦争と同様で、「名誉ある撤退」への道筋をつけるためであろう。

この交渉からカーブル政権が除外されていることはそれを示している。米軍の「名誉ある撤退」が実現すれば、アフガニスタンはタリバンによって統治されることになり、国民的基盤のない傀儡政権はタリバンに呑み込まれよう。傀儡政権の末路は哀れだ。

米ソ冷戦終結後、歴代政権が戦線を拡大してきた戦争から退却を迫られているのはアフガニスタンだけではない。

シリア、ウクライナ、そして朝鮮半島でも。

オバマ政権によって2011年はじまったシリアでの戦争では、米国と西側が支援する反政府武装勢力の敗色が濃厚だ。一時はシリア国土の半分以上を支配した反政府武装勢力は、シリア国民の支持を得られず、今ではその支配地域をほとんど失いイドリブ県に押し込まれている。シリアでもアサド政権を「悪魔化」する米国のプロパガンダは国民に受け入れられず、敗退を余儀なくされている。

オバマ政権に連なるリベラルホーク、民主党強硬派とネオコンはシリアからの撤退をほのめかすトランプ大統領に激しく抵抗しているが、シリアからの撤退も避けられまい。

ウクライナでは、2004年に「オレンジ革命」によって一度は大統領の座を追われたヤヌコビッチ氏が2010年にふたたび大統領に当選し新ロ路線を打ち出すと、オバマ政権は2014年2月、NATOの東方拡大を目的に事実上のクーデターを仕組んでヤヌコビッチ政権を打倒した。表向きは「反政府デモ」とされたが、この暴力デモを主導したのは米国にやとわれたプロの傭兵たちで、指揮、支援したのはキエフの米国大使館であったことは秘密ではない。当時少なからぬマスコミは、キエフの惨状は戦場さながらであったと伝えた。

しかしこのクーデターはロシアの強力な反撃を招き、クリミア半島がロシアに編入され、東部地域では内戦が勃発、現在に至っている。

オバマ前大統領任期中に起こした戦争の中で成功した戦争はない。リビアではカダフィ大佐を除去したものの、内戦は現在も続いており混とんとしている。シリアでは敗退しつつあり、ウクライナでも目的を達していない。

朝鮮半島でも状況は同じだ。

本コラムで何度も指摘したが、オバマ前大統領は任期中であった2015年1月「インターネットなどの情報が北朝鮮に変化をもたらす。 北朝鮮の・・・政権をこれ以上維持する事は難しい。 アメリカは北朝鮮に対する圧力の水位を高め、時間とともに北朝鮮は崩壊することだろう」(動画サイト・youtubeとのインタビュー、2015年01月28日)と述べていた。

しかし、北朝鮮の崩壊というオバマ政権の愚かな目標は実現されず、水素爆弾にICBMを兼ね備えた核武装を招いた。朝鮮半島でも「オバマの戦争」は失敗したのである。

トランプ大統領が行った朝米首脳会談、米ロ首脳会談、タリバンとの交渉などは、歴代米政権、特にオバマ前大統領が戦線を拡大して敗退もしくは失敗して収拾することもできずに放り出された数々の戦争の尻拭いともいえる。

にもかかわらず、特に民主党の強硬派は朝米首脳会談、米ロ首脳会談などを政争の具にして激しい反トランプキャンペーンを行っている。再び政権を奪い取ったからといってすでに敗色濃厚な世界各地での戦争を逆転させられるわけでもあるまい。

朝米首脳会談は、アフガニスタン同様に、米国の朝鮮半島からの「名誉ある撤退」の第一歩だ。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。