M.K通信 (28)「米本土を攻撃できる」北朝鮮のICBM

北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)は「米本土を攻撃できる」能力があり、ロシア、中国とともに米国にとって脅威になっている。

北朝鮮がいくらこう主張しても西側ではだれも信じまい。 しかし、米国自身が、北朝鮮は米本土を攻撃できる力を持っていると、認めれば事情は異なる。

4月1日、米国防総省は「米国の核抑止政策」という報告書をホームページ上で公表した。 報告書は、北朝鮮は「6回にわたる精巧な核実験を実施し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験も3回行って米本土を攻撃できる力が立証された」と指摘した。 また、北朝鮮、ロシア、中国の3カ国を「核によって米国の脅威となる国」として名指しした。

米国は、北朝鮮が一昨年に火星15の発射実験を行い「国家核戦力の完成」を宣言した後も、大気圏再突入技術を取得していないと、北朝鮮のICBM技術を過小評価してきたが、プロパガンダに過ぎなかったわけだ。 2~3回の実験を観察しただけで米国がどの程度正確に北朝鮮のICBM技術を分析できたのか定かではないが、ロシアや中国と同様に「米本土を攻撃できる力」を持っていることを認めるに至った。

一方、米国議会の諮問機関「議会電磁波委員会」のピーター・ビンセント・プライ顧問は、3月末の「ワシントン・タイムズ」紙に「北朝鮮非核化のための軍事オプション」という論文を発表し、宇宙軌道を飛行している北朝鮮の人工衛星2基に対して電磁波攻撃によって無力化することを提案している。 同顧問は北朝鮮の2基の衛星は核兵器と組み合わせることによって米国全土の電力送信を止めることが可能になるためだと指摘している。

物騒な提案だが、指摘しておきたいことは、米国は北朝鮮が2012年12月に打ち上げた「光明星3号2号」と、2016年2月に打ち上げた「光明星4号」の2基が宇宙軌道に乗っていることを確認していることだ。 筆者の記憶違いでなければ、米国は当時、衛星打ち上げであることを認めず、弾道ミサイル実験だと強弁して制裁の対象にした。 「議会電磁波委員会」顧問の物騒な提案は、北朝鮮のICBMが衛星と組み合わせることによって、米本土に多様な攻撃を仕掛ける能力を有していることを示している。

明らかなのは、北朝鮮はロシア、中国と肩を並べる「核によって米国の脅威となる国」、核保有国であるという厳然たる事実だ。

朝鮮半島の非核化を目指す朝米交渉はこの厳然たる事実から出発しており、取引の材料は核兵器と核の脅威だ。 純金の取引に鉄くずを持ち出しても取引にはならない。 非核化交渉に制裁の解除は取引材料足り得ない。

本コラムで重ねて強調したように、北朝鮮による核兵器の開発は、米国の一方的な核の脅威に対応したもので国家と民族を守るための抑止にその目的がある。 このため米国の敵対政策、核の脅威がなくならない限り北朝鮮の非核化もあり得ない。

北朝鮮の全面的な非核化と制裁の解除を取引しようとする「ビックディール」は、核の脅威は温存したまま核抑止を取り除こうとするもので、北朝鮮としては受け入れられる取引ではない。 北朝鮮はすでに米国の要求は「先・武装解除、後・体制転覆の野望を実現する条件を整えてみようと躍起になっている」と非難、一切の譲歩も妥協もしない姿勢を鮮明にして、長期戦に備える構えを見せている。(金正恩国務委員会委員長の施政演説、4月12日)

朝鮮半島の平和が実現するまで、「米本土を攻撃できる力」をむざむざ手放すことはないという強い意思の表明だろう。

考えてみれば、ロシア、中国とともに世界で三か国しか持っていない核抑止力を、自らの安全保障の担保なしに手放す愚か者がいるのだろうか? ましてや米国を信じて武装解除したあげく米国の武力攻撃で倒されたカダフィ政権の末路をみているのに・・・。 反対に、冷戦の崩壊という衝撃に耐え抜き、米国の体制崩壊を狙った絶え間ない圧力と制裁に対抗して核抑止力を築き上げた北朝鮮を、制裁で追い詰めることができると考えるのも愚か者のなせる業だ。

国務省とCIAで北朝鮮情報を分析したロバート・カーリン 米スタンフォード大学国際安保協力センター客員研究員は4月4日、「ロサンゼルス・タイムズ」への寄稿文で、「ビックディール」を支えているのは「圧迫の効能に対するほとんど宗教に近い信頼だけだ」ど指摘している。

「宗教に近い信頼」は、すでに長期戦に備えた北朝鮮の核抑止力の強化を招こう。 どちらが愚か者なのか? 時間が証明する。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。