M.K通信 (27)「先・武装解除、後・体制転覆」

平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議14期第1回会議の初日に、「共和国最高首位」の国務委員長に再推戴された金正恩国務委員会委員長は二日目の12日に施政演説を行い、米国がハノイ会談で「ビックディール」を持ち出したことと関連して、「先・武装解除、後・体制転覆の野望を実現する条件を整えてみようと躍起になっている」と非難、「国家と人民の根本利益と関連する問題では一切の譲歩も妥協もしない」と指摘した。

施政演説を報じた米日のマスコミは、金正恩委員長が前提条件付きではあるが、第3回朝米首脳会談に応じる意向を表明したと報じたが、金正恩委員長が「ビックディール」を「先・武装解除、後・体制転覆」の画策と批判したことをなぜか報じていない。 去る3月15日、崔善姫外務次官が記者会見を開き「ビックディール」を持ち出した「米国といかなる妥協もするつもりはないし、今回のような交渉は尚更行う意欲も計画もない」と述べた時も、所詮外務技官レベルの発言、とそのトーンを弱めるかのような報道があった。

このような西側のマスコミ報道だけでは北朝鮮の真意を正確に把握することができず、情勢展開を見誤る恐れがある。 第3回首脳会談にしても、北朝鮮が示した前提条件の内容が、「先・武装解除、後・体制転覆」の画策である「ビックディール」を引っ込め、双方が共有できる方法論を作り首脳会談をやろうというなら、という厳しいもので、実現いかんを予測できないばかりか、早晩激しい朝米対立が再燃する可能性も否定できない。

参考までに少し長くなるが、「ビックディール」を念頭に置いたとみられる金正恩委員長の発言を以下の紹介しておく。

「最近、わが核戦力の急速な発展の現実から自らの本土の安全に恐れを感じた米国は会談場に現れ、一方では関係改善と平和の風呂敷包みをいじり、他方では経済制裁に必死に執着しながら、なんとしてもわれわれが進む道を逆戻りさせ、先・武装解除、後・体制転覆の野望を実現する条件を整えてみようと躍起になっている。

米国がわが国家の根本利益に背く要求をいわゆる制裁解除の条件として持ち出している状況の下で、われわれと米国との対峙はいずれにせよ長期性を帯びることになっており、敵対勢力の制裁も続くようになるであろう。 われわれは敵対勢力の恒常的な制裁を受ける中で社会主義を建設してきたが、だからといってそれに慢性化しては絶対にならず、革命の前進速度を少しも遅らすことはできない。

力ではわれわれをどうにもすることができない勢力にとって制裁は最後の窮余の一策であるとしても、それ自体がわれわれに対する我慢できない挑戦であるだけに、決してそれを容認したり傍観視したりするわけにはいかず、必ず立ち向かって粉砕しなければならない。 長期間の核脅威を核で終息させたように、敵対勢力の制裁突風は自立、自力の熱風で一掃しなければならない。」

ハノイで米国がシンガポール共同声明から遠くかけ離れた要求、しかも一度はトランプ大統領自身が否定して見せた「リビアモデル」を「ビックディール」として持ち出したことは、北朝鮮にとって想定外のことでもなければ、驚きでもないはずだ。

なぜなら、ジュネーブ合意であれ、6者会談の共同声明であれ、米国は文書では朝米関係の改善、朝鮮半島の平和構築を約束しながら、一度も守ったことがなく、「先・非核化」と武装解除を強いるための制裁を繰り返してきたためだ。 ブッシュ政権下で、ジュネーブ合意を最終的に破綻させたCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)なる強硬関与はボルトン補佐官などのネオコンが作り上げたもので、もはやそれは外交ではなく降伏要求であった。

CVIDはリビアに適用され「成功」したことから「リビアモデル」と呼ばれているが、朝鮮半島では北朝鮮の強力な反撃に直面して核抑止力の開発を招いたのは、その間の経緯が物語っている。

ブッシュ政権下で北朝鮮の反撃を招き核兵器の開発を招いた古ぼけたCVIDを、北朝鮮の「国家核戦力」が完成した今再び持ち出すのはあまりにも芸がない。 古ぼけた「リビアモデル」を「ビックディール」なる言葉で化粧しなおして、武装解除を迫るのは、驕りのなせる業なのだろう。 先述したように金正恩委員長は施政演説で、この「ビックディール」について「国家の根本利益に背く要求」と指摘しており、北朝鮮側が「ビックディール」に歩み寄ることは考えられない。

米国がシンガポール共同声明に立ち返り「ビックディール」を取り下げない限り朝米間の交渉は長期化せざるを得ない。

金正恩委員長は施政演説で、北朝鮮のICBM迎撃演習、韓米軍事演習の再開問題にも触れ、「風が吹けば波が立つように、米国の対朝鮮敵視政策が露骨になるほど、それに対応するわれわれの行動も伴われることになっている」と指摘している。

問題解決が長引く中で、北朝鮮の核抑止力が足踏みすると考えるのは大きな間違いだ。(M.K

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。