M.K通信 (62)歪曲と詭弁に満ちた朝鮮半島平和体制をめぐる奇怪な論理

朝鮮半島に平和体制が確立されれば、朝鮮は体制崩壊の危機に直面することになるため、平和体制を望んでいない、という奇怪な論理が中国の学者によって流布されている。

韓国では比較的民主的であるとされる「ハンギョレ新聞」(2月17日付け)への「朝鮮半島の平和と北のジレンマ」と題した、金景一北京大学教授の寄稿文がそれだ。

「朝鮮半島の平和体制構築は朝鮮半島非核化とコインの裏表」となっているとの前提で、「平和体制とコインの裏表を成した北朝鮮核問題を無視して『平和協定』などを云々するのは、やはり平和体制構築とはかけ離れたことだと言える。」という驚くべき主張を展開している。 なぜお驚くべき主張かといえば、「北朝鮮の核問題」の解決なくして平和はないという米国の「先非核化論」、「体制崩壊論」そのものであるためだ。

さらにこの寄稿文は、「万が一」の前提のもと米国が「平和協定」締結と国交正常化に動いた場合、朝鮮は受け入れる準備がなく、「対北制裁よりさらに恐ろしい体制への脅威を感じる」ことになると、主張している。 教授が「万が一」との前提をつけたように、現在米国が「平和協定」締結に動くことはありえない。 つまり教授の主張は現実離れした架空の前提下での独善的な主張に過ぎないのだが・・・。

どの国の教授がどのような主張を展開するのかは自由だが、金景一北京大学教授の寄稿文の主張は、奇妙なことに、冷戦終結後、東西ドイツ統一後に保守、中道の区別なく、韓国の歴代政権が追及してきた、南が北を飲み込む「吸収統一」と軌を一にしている。 特に「先非核化論」といい、「北の体制の脅威」云々といい、朝米、南北関係における米国と文在寅政権の主張を代弁する結果になっている。

このコラムで普通なら取り上げない韓国紙への中国の一教授の寄稿文を取り上げたのは、朝米、南北関係が膠着した現時点で、寄稿文が結果的に責任を朝鮮に押し付ける米韓の主張を代弁するプロパガンダになっており(意図したかどうかは別にして)、その内容があまりにも荒唐無稽であるためだ。 比較的民主的な韓国紙上で、北京大学教授が主張するのは、今の韓国ではよく練られたプロパガンダに見える。 このようなプロパガンダが「朝鮮日報」や「中央日報」のような反共保守系紙上でなされても効果は半減していただろう。

話を前に進めよう。

「朝鮮半島の平和体制構築は朝鮮半島非核化とコインの裏表」であるとの主張は、平和体制にかかわる議論が数十年にわたって行われてきた歴史的事実を無視した暴論であると言ってよい。

朝鮮半島が不安定な休戦下に置かれていることは周知の事実。 朝鮮は休戦協定を平和協定に置き換えることを再三に渡って提案してきた。 朝鮮の努力によって1975年には国連総会で、休戦協定を平和条約に置き換えることと国連軍を解散することが望ましく支持するとの決議案が採択された。 また1987年12月には、休戦協定の平和協定への転換などを朝鮮がソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長を介して米国に提案した。 にも関わらず今なお休戦下にあるのは米国が平和協定に応じなかったためである。 わかりやすく言えば、朝鮮は戦争をやめようと提案したが、米国がいやだ、戦争を続けると言ってきたのだ。 1975年はもちろん1987年にも朝鮮は非核国家であった。 つまり朝鮮が非核化しないから平和協定に応じないという論理はなりたたないのだ。 金景一北京大学教授の「コインの裏表」論を暴論という理由はここにある。

もうひとつ事実を伝えておこう。 シンガポール朝米共同声明には、①新たな朝米関係の樹立②恒久的で強固な平和体制の構築③朝鮮半島の完全な非核化について約束した。これを実行するために朝鮮は首脳会談後に持たれたポンペオ国務長官との会談で、項目別に小委員会を作り実行していくことを提案した。 しかしポンペオはこの提案を拒否、一方的な「核申告」に固執し朝米対話を膠着させた。 またハノイ会談で朝鮮が寧辺核施設を丸ごと廃棄する代わりに制裁の一部解除を求める提案を行ったが、米国が拒否、朝鮮の体制崩壊を追及した「ビッグディール」を持ち出したことは記憶に新しい。

このように誰が平和を求め誰が拒否してきたか明らかだが、なぜか金景一北京大学教授は平和が「対北制裁よりさらに恐ろしい体制への脅威を感じる」ことになるという荒唐無稽な詭弁を弄している。

朝鮮の体制を脅かす脅威の実態は、米国の敵対政策であり、米軍と核兵器だ。 にもかかわらず金景一北京大学教授は平和体制が朝鮮に脅威をもたらすという奇怪な論理を展開している。 理由はどこにあるのか?

経済的に優位な南との経済協力も「北朝鮮にはバラ色の展望よりも不安な未来になり得る」、「国際社会との融合」は「途方もない変化」が並行する等々の指摘がその答えのようだ。

では中国が米国と国交を結び膨大な欧米資本を受けいれ「途方もない変化」が訪れたからといって、中国共産党による国家指導体制が脅威に直面したのか? ベトナムも共産党体制のままで西側の資本を受け入れ独自の経済改革を進めている。

西側では米国は対ソ冷戦で勝利するために対中国交正常化を進めたと主張している。 その是非はともかく、中国の共産党指導体制を標的にした脅威が除かれたことによって「改革開放」が可能になったのではないか。 最近米国は中国が経済発展すれば共産党体制が崩れ民主化すると思ったがそうではなったと主張しながら貿易戦争をしかけているが・・・。 また米国は中国を圧迫するためにベトナムと国交を結び同国の経済改革を可能ならしめたと西側では分析されているようだ。

いずれにせよ明確なのは、体制を脅かす脅威の実態が取り除かれれば、「国際社会との融合」、「途方もない変化」南北経済協力などは体制の脅威になりえないということだ。 中国とベトナムが実証しているではないのか。

今一度言うが平和が「対北制裁よりさらに恐ろしい体制への脅威を感じる」などという荒唐無稽な主張は、朝米、南北関係膠着の原因を朝鮮に求める米韓の悪意に満ちた詭弁の代弁に過ぎないと言わざるを得ない。

現在香港で起きているデモは、香港行政長官越しに中国の共産党政権をにらみ攻撃している香港版カラー革命のように見える。 中国政府はこれを決して座視しないであろう。 朝鮮も同様で資本主義思想・文化的浸透策動を阻止する「砲声なき戦争」を行うであろう。 ジレンマを云々しながら朝鮮の「砲声なき戦争」が平和体制を確立するうえにおいて障害になるかのような教授の論旨には首をかしげざるを得ない。  中国は香港版カラー革命に甘んじ朝鮮は「砲声なき戦争」は行うべきではないと聞こえるが考えすぎなのか?

米国の「先非核化論」の狙いは朝鮮の武装解除だ。 米国は平和体制の構築を拒否して戦争を続けながら朝鮮を武装解除して体制転換を図り朝鮮半島の北側も米国の支配下に組み込むことを究極の目標にしている。

欧米の地政学的視点からみれば、大陸勢力と海洋勢力の利害関係が交差する戦略的要衝である朝鮮半島を確保するのが狙いであろう。

文在寅政権は米国の「先非核化論」に従い、米国の力で北を飲み込む吸収統一を追及しており、「ハンギョレ新聞」はその主張を代弁している。 金景一北京大学教授の論旨はこれに与する詭弁に満ちたプロパガンダのそしりを免れない。

朝鮮は米国の核の脅威に対抗する核抑止力を備えた戦略国家だ。 米国が平和に応じなければ力で平和を保ち、経済的封鎖には自力自強で立ちむかうことを、昨年の党会議で決定した。

朝鮮半島はこれ以上強大国の角逐の場にならない。 欧米の侵略的な地政学は朝鮮半島ではこれ以上機能しない。 だれであれ朝鮮民族の和解と統一を妨害すべきでない。(M.K

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。